どうほく談話室
浜頓別の牧場主 杉山愛美さん(35)
牛好きが高じて酪農の道へ*新規就農者 支える存在に
【浜頓別】広大な牧草地が広がる南宗谷。高齢化や飼料高騰などで経営の先行きが見えず、廃業する酪農家が増える中、放牧酪農の牧場を営む浜頓別町の杉山愛美さん(35)は、北海道が主催するセミナーなどで講師を数多く務め、自身の新規就農経験を伝えている。酪農業を選んだ理由や新規就農者への支援のあり方について聞いた。
―酪農家になった理由を教えてください。
「大阪の実家は自動車整備業で農業とは縁がありませんが、子どものころから祖父母の家庭菜園を手伝ったり、ウサギを飼ったりしていました。その流れで、高校は大阪でただ一つの公立の農業高校に進学しました。学校では牛や豚、小動物を飼育していました。なかでも、体は大きいのに繊細で好奇心旺盛な牛たちのかわいさに魅了され、牛の世話をする通称『牛部』に入りました。先輩の厳しい指導の下、朝も夕も牛の世話に明け暮れました。担当した牛も私になついてくれて『もはや牛なしに生きていけない』と、帯広畜産大へ進みました」
―新規就農を目指したきっかけは。
「大阪にいたころは自分の牧場を持つなんて考えていませんでした。大学進学で北海道に来てから、多くの人に『そんなに牛が好きなら自分の牧場を持ってみたら』と勧められ、新規就農のための支援制度を教えていただきました。大学時代、将来どこで牛を飼うのがいいかを探るため、道内各地を回りました。宗谷管内に来たとき、時間の流れがマイペースな自分と合っている感じがしました。その後、縁があって浜頓別に新規就農しました」
―新規就農というと資金面で二の足を踏む人も多いのではないですか。
「施設の建設費や農機具の金額が大きいので驚きますよね。ただ、酪農は果樹栽培などと比べると天候に大きく左右されず、生乳は年間通して一定の価格で引き取ってもらえるので収入が安定しているメリットがあります」
―苦労も多いのでは。
「他の農家さんに手伝いに行っていた時とは違い、就農後は餌のやり方といった牛の飼育方法をはじめ、何でも自分で判断しなくてはなりません。失敗もありましたが、自分の考えでさまざまチャレンジができるので、良かったことだらけです」
―新規就農者を増やすにはどんなことが必要でしょうか。
「就農希望者と農協や市町村の担当者を橋渡しする人材です。新規就農を目指す研修生は農業の経験が足りないので、困りごとがあってもどこに何を聞いたらよいのかわからないのです。そんな時、新規就農OBが間に入ると心強いですね。私もネットワークを広げ、新規就農希望者を支える存在になれるよう頑張ります」(聞き手・川村史子)
*取材後記
杉山さんは、乳牛としての役目を終えた牛の熟成肉を2023年10月から「スロービーフ」のブランド名でネット販売し始めた。その後、販路を広げ、現在は町内の道の駅「北オホーツクはまとんべつ」や稚内市の相沢食料百貨店でも取り扱われるようになった。「ゆったりした時間が流れる宗谷が気に入った」という愛美さんだが、実は超多忙。次はどんなチャレンジをするのかが楽しみだ。
すぎやま・あいみ 大阪府羽曳野市出身。大阪府立農芸高校、帯広畜産大学を卒業。枝幸町の宗谷南酪農ヘルパー利用組合のヘルパーを経て、2017年1月、浜頓別町内の牧場を継承した。夫の彰さん(33)とともに「杉山牧場」を営む。
(2025年08月25日掲載)
※掲載情報は、取材当時のものです。閲覧時点で情報が異なる場合がありますので、予めご了承ください。