北海道新聞 旭川支社 + ななかまど

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どうほく談話室


旭川育児院院長 多田伝生さん(70)

地域家庭の悩み相談にも対応*虐待予防へ 子育て支援

 旭川市内の児童養護施設「旭川育児院」は創立以来103年にわたり、さまざまな理由で家庭での養育が難しい子どもを受け入れてきた。近年は、卒院生の生活支援や、地域の子育て世帯の相談などにも力を入れる。院長の多田伝生さん(70)に施設の果たす役割や今後の展望について聞いた。
 
 ―施設について教えてください。
 「保護者がいない、家庭で虐待を受けた-などの事情を抱えた幼児から大学生などまで70人余りが生活しています。職員は54人。子どもの意見を尊重する雰囲気づくりを意識し、院長室はいつでも子どもの話を聞けるよう扉を開けています」

 ―集団での暮らしで心掛けていることは。
 「虐待を受けた子は、大人が自分をどの程度まで受け止めてくれるのか探るために、わざと暴言を吐くなど『試し行動』をすることもあります。子どもは、人を見る目も適応力も持っています。職員には『一人一人の良いところを見いだし、10個注意するより、一つほめて』と話しています」

 ―進学や就職で施設を出た子どもの支援にも取り組んでいますね。
 「卒院生や家庭への支援のための専門部署『地域・自立支援部』を2018年に設けました。専門職6人を配置し人間関係や生活上の悩みなどの相談を受けています。親子間の関係調整などにもきめ細かに対応できるようになりました。有志の寄付をもとにした独自の給付型奨学金もあり、進学資金のほか、就職後に生活資金が足りない子にも、不足分を仕送りしています。生きがいや、生きている価値を感じてもらいたい。そんな思いが原点です」

 ―地域とのつながりも大きいそうですが。
 「ドライブ旅行や、近隣の住民も招いた花火大会などを協力企業が催してくれ、子どもたちが心待ちにしています。旭川医科大の学生が毎週学習ボランティアに来てくれるなど、地域に支えられていることを実感します」

 ―施設側も、多機能化を進め、地域福祉サービスを広げています。
 「旭川市と鷹栖町からの委託事業で、子どもを短期で預かるショートステイを行っています。さらに、家庭支援や里親支援の専門員を置き、24時間態勢で子育て相談に応じるほか、里親の開拓にも取り組んでいます」

 ―今後、どのような施設を目指しますか。
 「家庭養育を支える役割が大きくなっていくと思います。虐待の予防に一層力を入れたい。育児に疲れた親が一時的に子どもを預けられれば、また頑張れます。いつでも受け入れできるよう体制を整えたいと考えています。地域と連携しながら、育児院のノウハウを生かして取り組みます」
(聞き手・桜井則彦)

 
*取材後記
 北海道職員として、児童福祉分野を長く歩んできた多田さん。ただ大学での専攻は法律だったそう。福祉の道へ進んだきっかけを聞くと、大学時代のボランティア活動だった。知的障害、重症心身障害児の施設訪問や外出支援に携わり「社会に触れた瞬間、表情が変わり、全身で喜んでくれた」という。多田さんの話を聞き、児童福祉の役割やあり方を深掘りしたいと感じた。
 
 ただ・つとお 1954年、宮城県岩出山町(現大崎市)出身。東北学院大を卒業後、県内の身体障害者施設に就職。その後、北海道庁に入り、道立旭川肢体不自由児総合療育センターを振り出しに、釧路、室蘭、中央児童相談所(札幌)など児相勤務を多く経験してきた。2015年に旭川育児院事務長、16年から院長を務める。

(2024年12月02日掲載)

 

※掲載情報は、取材当時のものです。閲覧時点で情報が異なる場合がありますので、予めご了承ください。


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