北極星
道北各界で活躍する皆さんによるエッセーコーナーです。 2020年3月までの記事はこちら
塩田志女子(旭川道新エッセー教室受講生)*ゼロ、イチ
札幌の2月の大雪に、びっくりしながらテレビを見ていた。車どころか人とすれ違うのもままならない。「今日は、徒歩で出勤かしら」。札幌の息子に思いをはせる。
10年程前だろうか。札幌へ転勤するあの子の言葉を思い出した。「あと5年で定年だから札幌に永住するよ。旭川は雪が多いから」
電話が鳴った。「ハイ、ハイ」と言いながら受話器を取った。「お母さん元気?」「元気よ」「あのね、固定電話廃棄したから用事はスマホでね。分かった?」「うん、分かった」。息子は自分の用事だけを伝えると、電話を切った。
雪大変でしょうと聞きたかったのに。胸の奥を、一筋の寂しさが静かに通り抜けていった。
ふと、人通りのない街にポツンと建つ電話ボックスが目に浮かんだ。あの子が大学生の時だ。夫婦2人のつつましい夕食も終えた頃、電話が鳴った。「お母さん…」「もし、もし?」「ジージージー」。電話は切れている。寂しい息子の声が胸に残った。夫が「最後の10円でかけてきたのだ。お金送ってやってくれ。俺も腹をすかせて過ごした夜がある」と言った。
翌日、お金をかき集めて送った。2、3日すると元気な声で「お母さん」。すぐに呼び掛けたが、今度も電話は切れていた。市外局番のダイヤル「ゼロ、イチ」を回していたあの頃が、懐かしく思えた。
(2026年4月6日掲載)
※掲載情報は、取材当時のものです。閲覧時点で情報が異なる場合がありますので、予めご了承ください。


