北海道新聞 旭川支社 + ななかまど

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どうほく談話室


稚内で観光ガイド事業を始めた 倉悠介さん(34)

北宗谷の歴史、ツアーで紹介*薄れる過去 語り継ぐ使命

 【稚内】北宗谷の歴史やロシアとのかかわりを紹介する商品を中心とした、新スタイルの観光ガイドが稚内で始まった。稚内と利尻、礼文の両島を相互に結ぶハートランドフェリー(稚内)の元営業マン、倉悠介さん(34)が立ち上げた。事業の名前は「サウダージ」。ポルトガル語の「過去を思う切なさ」に込めた思いや狙い、稚内だからこその可能性を聞いた。

 ―ツアーパンフレットには「道北完全貸し切りガイド」とあります。
 「個人旅行客の1組を車で案内します。宗谷岬や宗谷丘陵を3時間で周遊するプラン(1人3千円)、稚内市内をくまなく巡る9時間のプラン(1組4万3千円)など計8プランを用意しています。記念碑などを一つずつ解説しながら、宗谷岬に近いサハリン沖で起きた大韓航空機撃墜事件(1983年)など、地域で起きた暗い歴史や平和の尊さにも目を向けてます」

 ―「歴史」に焦点を当てたのはなぜでしょう。
 「フェリー利用のお客さんに稚内の観光情報を説明するうち、その特異性を再認識しました。ロシアと関係が深い国境の町には樺太(サハリン)の戦争犠牲者を悼む施設や樺太を探検した間宮林蔵の業績を伝える史跡などが多くあります。明るく楽しんでもらうだけでなく、忘れられつつある歴史を観光で語り継ぐ使命感を持っています」

 ―個人客に対象を絞った理由は。
 「稚内観光は団体客が主流で、添乗員が一方的に解説してきました。一方、全国では個人旅行が増えており、稚内や周辺でも個人客に魅力を発信したいと思いました」

 ―脱サラするには覚悟が必要だったのでは。
 「ハートランドフェリーでは積み込み車両の台数計算や旅行会社との予約調整を担いました。昨夏、稚内―サハリン航路に携わったOBの西浦宏之さん(64)と話す機会があり、稚内の歴史の造詣の深さに感銘しました。一緒に働きたいと思い、昨年末に退職して今年6月に事業を始めました」

 ―どのような利用を想定していますか
 「利尻、礼文で観光したあと稚内でフェリーを降り、帰りのJRや飛行機が出発するまでの空き時間に参加する。興味をもったら、次回は稚内で長く滞在してもらう。そんな人が増えれば、地域観光が発展します」

 ―利用客の反応は。
 「稚内がこんなに奥深い場所だとは知らなかった、という声をもらいます。いずれは周辺の市町村まで広げてガイドしようと思っています」(聞き手・梶蓮太郎)

 

*取材後記
 サウダージが窓口を構えるフェリーターミナルは今夏も、団体客やキャンプ道具を抱えた人で混み合う。サウダージはその北宗谷の観光に「個人客」や「歴史」という新たなキーワードを提示した。稚内が離島へ向かうための単なる通過地点ではなく、「国境の町」を楽しむ目的地となるか。まだ知られていない無数の旅のスタイルがありそうだ。

 くら・ゆうすけ 1991年、稚内市生まれ。苫小牧駒沢大(現北洋大)を卒業後、2014年から10年間ハートランドフェリーで勤務した。サウダージではオリジナルTシャツなどの物販も手がける。
(2025年08月04掲載)

 

※掲載情報は、取材当時のものです。閲覧時点で情報が異なる場合がありますので、予めご了承ください。


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