どうほく談話室
名寄ひまわり基金法律事務所の7代目所長 西田真理子さん(52)
障害者や高齢者を手助け*困ったら気兼ねなく相談を
【名寄】地方の弁護士不足解消のために日本弁護士連合会などが設立した名寄ひまわり基金法律事務所の7代目所長、弁護士の西田真理子さん(52)は地方公務員や派遣社員、アルバイトなどさまざまな仕事を経験した後、3年前に弁護士になった。弁護士になろうと思った理由や、日々の法律相談などを通して感じる地方での課題、今後の目標などを聞いた。
――公務員として働いた経験があるのですね。
「大学院で地方自治体の福祉政策を学び、人の役に立つ仕事がしたいと公務員になりました。配属された職場では税務や生活保護の部署を経験しました。しかし、職場は病欠者が出るなどして夜遅くまでサービス残業をしなければならず、そうした環境に疑問を抱いて退職しました」
――弁護士を目指したきっかけを教えてください。
「退職した1997年は拓銀が破綻した年。北海道経済がどん底にありました。派遣社員やアルバイトとして働きましたが、一度、非正規になると、なかなか正社員にはい上がることができません。私はいわゆるロストジェネレーション世代(就職氷河期世代)にあたります。『何か資格を持たなければ』と考える中で、自分も含めた労働者を守る仕事をしたいと思い、弁護士を目指しました」
――弁護士になって、それまでの職歴は生かせていますか。
「司法試験に合格したのは2019年でした。私はそれほど要領がいい人間ではないので、試験に受かるまでかなりの時間を要しました。履歴書に書ききれないほど多くの職場で働きながらの試験勉強でした。しかし、さまざまな業種の仕事を経験したおかげで、法律相談に来た人の立場を理解できますし、無駄な経験は一つもなかったと思っています」
――名寄に赴任して1年がたちましたが、印象的なことはありますか。
「札幌にいたときよりも取り扱う件数は多く、自己破産といった債務整理や離婚、相続関係の相談が群を抜いて多い。印象的なのは名寄の場合、市職員や社会福祉協議会の職員が債務に苦しむ障害者や高齢者に同伴して法律相談を受けることが多いです。札幌では、依頼者が1人で法律事務所に来て助けを求めることが多かったので、名寄は障害者や高齢者に対する支援が手厚いと感じました」
――上川北部地域での課題はありますか。
「地域の高齢化で認知症のお年寄りも増えており、後見人や保佐人の申し立てが増加しています。名寄では、弁護士や社協が選任されていますが、さらなる高齢化で、近い将来、需要に応えられなくなってしまうと懸念しています」
「上川北部に限らないことですが裁判官の人数が少ないです。特に旭川地裁名寄支部の場合、旭川から地裁の裁判官1人が月に数日来て、民事、刑事、家事を一手に引き受けています」
――所長としての目標は。
「地方ならではですが、人目をはばかって、緊張しながら事務所に訪れる依頼人の姿を見てきました。事務所の弁護士の任期は3年。残りの任期2年で、市民が困ったときに気兼ねなく相談できるような敷居の低い事務所づくりを進めていきます」(聞き手・名寄支局 朝生樹)
*取材後記
物腰柔らかく一つ一つの質問に丁寧に答える姿が印象的だった。西田さんは名寄市障害者自立支援協議会のメンバーで、障害者雇用を行う企業の訪問や、農家と就労支援事業所をつなぐ方法を検討するなどの活動に取り組んでいるという。
「弁護士という肩書があっても、地域住民の目線や常識を忘れてはならない」と西田さん。長年、非正規で働いた当事者だからこその言葉だと強く感じた。
にしだ・まりこ 1970年、室蘭市生まれ。北大公共政策大学院修了後、道内で地方公務員として勤務。退職後、アルバイトや派遣社員を経て、2020年度に弁護士登録。すずらん基金法律事務所(札幌)を経て22年6月に名寄に着任した。
(2023年6月19日掲載)
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