どうほく談話室
富良野市ぶどう果樹研究所所長 川上勝義さん(55)
50周年を迎えた「ふらのワイン」*販路拡大、品質向上さらに
【富良野】富良野市のワイン事業が今年で50周年を迎えた。地域の農業振興を原点に、ブドウの栽培や品種開発、製造販売までを行う「ふらのワイン」を営々と進化させてきた。50カ所以上のワイナリーがひしめく道内でさらなる発展の道筋をどう描くか。市ぶどう果樹研究所の川上勝義所長(55)に聞いた。
(聞き手・富良野支局 千葉佳奈)
――ふらのワインの特徴は。
「全国的にも珍しい公営ワイナリーで、市外からブドウの買い付けはせず、市内の契約農家と市の直営畑で収穫した地元産ブドウ100%で製造しています。2005年には自然凍結した果実を使ったアイスワインを国内で初めて発売するなど新たな取り組みを続けています」
――今年は市民向けにブドウ苗を無料配布するなど、さまざまな周年事業を行っていますね。
「市民にワインのまちだと再認識してもらうとともに、年々品質が向上していることを広く知ってもらうのが狙いでした。販路拡大を目指すため、7月には札幌市内で酒類卸売業者などを対象にした初めての単独セミナーを開催。参加者の反応も上々でした。10月23日には富良野市内で、50周年に合わせて醸造した記念ワインを関係者らにお披露目する予定です」
――新型コロナウイルスの影響はありましたか。
「ふらのワインの消費は富良野地方が6割を占め、続いて道内(同地方を除く)が3割、道外が1割です。コロナ禍で富良野に観光客が来なくなると、必然的に売り上げは大きな打撃を受けましたし、緊急事態宣言の際には直営の売店も閉めざるをえませんでした。現在は観光客が戻りつつあるため売り上げも回復傾向にありますが、販路や販売戦略の見直し検討が必要だと考えています」
――打開策はありますか。
「一つ目は、コロナ禍で売り上げを支えたオンラインショップ販売にさらに力を入れるため、来年4月にホームページ全体のリニューアルを行う予定です。二つ目は、富良野地方以外での販路拡大です。道内主要都市を中心に営業に力を入れていく予定です」
――ワイン関係者からは他の事業者に醸造技術を教えるなど、模範的なワイナリーとの声も多く聞きます。
「ライバルという言い方は適さないかもしれませんが、山梨県や長野県といったワインどころと対等に戦えるよう北海道のワイン全体の底上げが重要だと考えています。ふらのワインは誕生時と同様に農業振興という根っこは変わらず、『メイドインフラノの本丸だ』と胸を張っておすすめできる品質の高い商品を提供し続けます」
*取材後記
富良野市は、市町村の境界線を示す道路標識「カントリーサイン」のデザインにブドウがあしらわれるほどワインのまちでもある。若者のお酒離れが進む中、いかにワインを飲んでもらうきっかけをつくるか。取材の中で「ブドウ畑を収穫だけでなく、観光資源としていかに見せるかも必要」と語った。老舗ワイナリーでありながら、挑戦を続けるふらのワインの今後が楽しみでならない。
かわかみ・かつよし 1967年、富良野市生まれ。青山学院大卒。91年に市役所入りし商工観光課長などを経て、2017年から現職。20年から経済部長を兼任する。日課は朝のウオーキング。お気に入りのふらのワインはスパークリング「ペルル・ブランシュ」。
(2022年10月17日掲載)
※掲載情報は、取材当時のものです。閲覧時点で情報が異なる場合がありますので、予めご了承ください。