北海道新聞 旭川支社 + ななかまど

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旭山動物園わくわく日記

全国的な人気を呼ぶ旭川市旭山動物園の話題やイベント、裏話などを紹介します。 旭山動物園ガイドとしてもお楽しみいただけます。 2020年3月までの記事はこちら


飛べないオジロワシ*野生との共生 問いかける


 4月末に誕生した「えぞひぐま館」入り口付近の展示室で、2羽のオジロワシがぎろりと鋭い目を光らせた。元々2羽はあざらし館で展示され、スペースの都合でバックヤードに移った。そして今回、えぞひぐま館の誕生に合わせて「新居」に引っ越した。

 2羽は雄と雌で、どちらも空を自由に飛べない。雌は左翼を根元から失い、くちばしの一部も欠損。稚内市内で保護され、1988年に来園した。カッ、カッと低くかすれた鳴き声が印象的だ。

 雄は右翼の先が欠損している。釧路市動物園が保護した後、2002年に旭山動物園に来園した。同園によると、列車や車、風車などにぶつかって翼を失ったり、命を落としたりする鳥は少なくないという。

 2羽が歩いて移動できるように、展示室にはいくつかの止まり木が設置されている。雄は大きさの異なる翼をバサバサと動かし、止まり木や壁に古傷をぶつけて血を流してしまう。

 来園者から「オジロワシが血を出している」と連絡が入ることもしばしば。飼育員は毎日の掃除で、できるだけ暴れさせないように気を配りつつ、血やふん尿をしっかり洗い流すようにしている。

 餌はホッケや鶏肉、鹿肉、馬肉、ウズラ、ヒヨコ…。本来は、足の爪で餌を押さえてくちばしで食いちぎるが、雌はくちばしでうまく餌をはさめないため、一口サイズに切って与えている。「隣人」のヒグマ、とんこが餌のにおいに反応し、展示室の採光用小窓から、のぞき込むこともあるという。

 今回の展示を提案したのは、猛禽(もうきん)類を長年担当してきたえぞひぐま館飼育員、大内章広さん(37)。オジロワシとヒグマは生育環境が近い。そしてどちらも、動物園に保護された動物だ。大内さんは「野生にはハンディキャップのある個体がおり、その背景に人間も関わっていることがある」と指摘。「ハンディのある動物を目にした人間が、どう生活し、どう生き物と共生するかを、問いかけるきっかけになれば」と期待する。(鳥潟かれん)
 
【写真説明】2羽のオジロワシ。同じ止まり木に仲良く並ぶことも多い(宮永春希撮影)
(2022年5月16日掲載)
 
 

 

※掲載情報は、取材当時のものです。閲覧時点で情報が異なる場合がありますので、予めご了承ください。


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