北海道新聞旭川支社
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北極星

谷龍嗣(留萌市・僧侶)*稲は命根  2018/11/11

 実家は増毛町信砂の辺り一面が水田の中にあるお寺です。毎年10月に入れば、輝く稲穂で覆いつくされます。稲穂を見ながら思い出す事があります。それは「血染めのお米」です。

 そのお米は留萌沖で起きた「三船遭難事件」で生まれました。1945年(昭和20年)8月22日、樺太からの引き揚げ船3隻を国籍不明船が襲撃し、1708人もの尊い命が失われました。

 船底には樺太のお米が積み込まれ、傷ついた方々の血で染まったそうです。3隻のうち、第二新興丸は傾いたまま留萌港に入港。市民は亡きがらや生存している多くの方々を引き上げ、負傷者を家々に引き取り、手当てをしたそうです。その時に、血染めのお米も配られたとのことです。

 今、そのお米は市内のお寺にそっとあります。3年前の夏、そのお米を見る機会がありました。真っ白な骨つぼの中に、真っ黒になっていた血染めのお米がありました。郷土の地を踏む目前で願いかなわなかった方々の悲しさや苦しさが全身を駆け抜け、鳥肌が立ったことが忘れられません。

 お檀家(だんか)さんの農家の方が言った言葉を思い出します。「稲は命根(いのちね)なんだよな」。お米は多くの力で支えられて育ちます。その一粒一粒を頂く私たちは、今ここをどう生きるのか。お米は私たちに生命や平和を伝えてくれています。


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