北海道新聞旭川支社
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北極星

稲荷桂司(旭川・公務員)*書を糧として 2018/10/29

 このところ、気力と体力の消耗が激しく、積極的に行動ができない。新しいことを始められないばかりか、今までできていたこともままならない。毎日、状況に追い回されるようで、右往左往する自分がいる。

 これではいけないと、落ち着いて中国の古典をひもといてみた。長年の愛読書「老子」を読むと、「空っぽであれば満たされる」。注釈には「自ら誇らなければ、功績が得られるのだ」とあった。これは老子流の逆説で、よくある表現なので、いつもなら軽く読み飛ばしているところだが、今回はどうも引っかかった。

 そもそもこの注を書いた王弼(おうひつ)は、あの「三国志」の時代を生き、「老子」のほかに「易経」の注も書き、20代の若さで亡くなった。とにかく才走った人物で、才能を認められながらも、それを鼻にかけたため敵も多かったらしい。

 そんな人物が「自ら誇らなければ」と書いている。彼はどんな気持ちで「老子」を読み、このような注を書いたのだろう。後世、彼は「浅はかで世情を知らない」とも評され、読書を生き方の糧にせず、議論を目的にしていたフシがある。

 もとより功績を得たいわけではない。人の評価に振り回されることなく、また王弼のような字づらの楽しみにふけることもなく、書を糧として淡々と日々を歩めればと思う。


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