北海道新聞旭川支社
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北極星

 嶋崎暁啓(豊富・NPO職員)*秋は夕暮れ 2017/09/07

 サロベツに暮らしている人に対して「あなたが一番好きな時間は?」と尋ねたら、どんな答えが返ってくるだろう。実際に私が問われたことは今までに一度もないのだが、もし聞かれたならばこう答えたい。「朝もやの中、幻想的に浮かび上がる湿原は本当に素晴らしい」

 豊徳(ほうとく)台地の牧草地からサロベツ湿原を望む。眼下には雲海のような光景が広がり、その奥にはご来光が見える。ただ、早起きがあまり得意でない私には、そうそう拝めない絶景である。となると、自信を持ってお薦めできるのは夕暮れ時だ。だんだんと日が短くなってきたが、今なら他の季節ほど寒さは厳しくないので頑張れる。

 日本海に面した稚咲内(わかさかない)の海岸に立つと、秋の澄み切った空気の中で沈みゆく太陽を存分に満喫できる。逆光の中に照らし出される植物のシルエットも美しい。あかね色の光は湿原に存在しているもの全てを染め上げる「魔法の光」。常に変化していくはかなさと、奇跡のような色彩に出合うことができる。そのまま大きく息を吸い込むと、凜(りん)とした自然の美しさが肺を通って体の隅々まで染み渡っていく感じがする。

 ただその瞬間に立ち会えただけで幸せな気分になる、あかね色のサロベツ。これが私の大好きな「サロベツ時間」だ。


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