北海道新聞旭川支社
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北極星

 大橋美智子(旭川・農業)*畑がくれたもの 2017/08/03

 実家の母が5カ月あまりの入院生活からようやく自宅に帰った。病気のせいで筋力が弱り、今までのようなひとり暮らしも難しいかと思ったが、何とか日常生活を送れるまでに回復して退院となった。

 退院の日、自宅へ送る途中、介護用品を見ようとホームセンターへ寄った。母はそこをささっと眺めてから、そそくさと別のコーナーへ移動。そこは野菜の種子コーナー。畑作りもまだ諦めていなかった。

 北海道の短い夏、種を蒔(ま)くにも苗を植えるにもタイムリミットぎりぎりの時期だ。次の日私は野菜の苗を買い、大急ぎで植える段取りをした。母は足は弱ったが口は達者。買ったばかりのシルバーカーに座って、そばで指示を飛ばす。そのうち見ているだけでは我慢ならず、立ち上がりクワを使い始めた。退院したばかりでどこにそんなパワーがあったのか。

 あれから1カ月半が過ぎた。苗を植えるときは、それで母の気が済めば良いと思っていたが、母は私の予想を超えてしっかり手入れをして、新たに種も蒔いた。ひと雨ごとに伸びる草やキャベツ畑で乱舞する蝶(ちょう)は私にはストレスの元でしかないが、母にとっては「やる気スイッチ」を押してくれるアイテムなのだろうか。母はどんどん活性化している。母は畑から元気という宝物をもらった。


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