北海道新聞旭川支社
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北極星

谷紀美子(名寄・非常勤図書館員)*別れは突然 2017/01/13

 ちょうど1年前、母が急逝した。その少し前に私はこの欄で、1人暮らしの高齢者である母の今後を案じつつも、何ら具体策がない状況を「親を、どうする」なんてタイトルの文章に書いていた。本欄は道北限定だから、道南に住む母の目に入るはずはないのに、まるで読んだかのようなタイミングで「そんな心配はご無用」とばかり、あっさりと逝ってしまった。

 まだ、元気なうちに死ぬとは。だって、死んだとされる前日の買い物のレシートがあったし、その日にも日記を書いていたのだ。最後の日記は「鍋をこがした」という残念な1行で終わっていた。

 母は状況的には不審死だった。朝に発見されて、O町消防署から知らせが来て、あたふたと出発し、東京から駆けつけた姉たちとともに警察で事情聴取された。事件性はなかったので葬儀屋さんに家まで搬送してもらって、「そういえば何も食べてなかった」とコンビニで買ったカップ麺をすすっていたら日付が変わっていた、あの長い1日を生涯忘れない。

 いったい、母に何が起こったのだろう。「あの世」があって、いつの日か私もそっちへ行って再会できたら、その顛末(てんまつ)を聞いてみようと思う。変な言い方だけれど、私には死んでからの楽しみができた。母よ、その時はできればさんずの川の対岸で、笑って手でも振ってくれたらありがたい。

 申(さる)年の母は申年に逝った。私が暮れに贈った赤い下着はきちんとたたんでタンスに入っていた。健康を願ってあげたのにとんだ結末になった。


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