北海道新聞旭川支社
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北極星

福嶋匡洋(羽幌・臨床心理士)*私はライダー  2016/10/15

 家族が増え、冬の長い北海道に移り、次第に夏専用の通勤快速号となってしまった私のバイク。「いつ手放すの?」という妻の恐怖の一言から、わが家のリストラ候補第1位に鎮座して1年がたつ。昨夏は初めて一度も遠乗りしなかった。「来年は一緒に走ろう」と後ろめたい気持ちで冬眠に入るバイクに語りかけた。気ままなバイク旅をしていた頃が幻のように思えた。

 あれから1年。先月たまたま予定のない休日が1日できた。前日に天気予報を確認すると晴れ。「あぁ、走りたい!」―久々にライダーであることを思い出した。

 緊張と興奮の朝。2年ぶりのツーリング。目的地は宗谷岬にした。往路は内陸、復路は沿岸を走る約500キロの道程だ。日帰り旅の物足りなさを補えるくらいの走り応えはありそうだ。

 いざ出発。私が感覚を取り戻すのに少しだけ時間がかかったが、バイクはいつもと変わらない走りで応えてくれた。前方から1台のバイク。すれ違いざまに手を挙げてライダーとあいさつを交わすと、私もライダーなのだという思いと、このバイクと過ごしてきた16年間の記憶が鮮明によみがえった。決して幻などではなかった。

 宗谷岬に着くと、真夏のにぎわいはないものの、全国各地のナンバーを背負ったバイクが並んでいた。かつての私も最北端を目指すライダーの一人だった。

 夕日を浴びながらの帰り道。旅の終わりの寂しさの後には、子どもたちの笑顔と「おかえりなさい」が待っていた。


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