北海道新聞旭川支社
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北極星

斎藤美和(富良野市・教員)*とんかつ  2016/07/25

 とんかつを揚げた。人生初のとんかつは、カリカリ。一度で成功した。

 料理は食べる専門。母が料理上手だったせいだ。何を作ってもおいしい。あまりにおいしくて、その領域に踏み入れられなかった、ことにしておこう。

 しかし、結婚し子供が生まれたら言い訳していられぬ。人並みの料理はした。が、新婚当初「カロリーの高い物は控えたい」と夫に言われ揚げ物から遠ざかった。

 娘が年長になり「遠足はから揚げ」とねだられ、からりと揚げられるようになった。やれやれと思っていたら、次はとんかつだ。「私だって1年生で頑張ってるんだから、ママも頑張ってみてよ、手伝うからさあ」

 調理師免許を持つ同僚に相談。「簡単ですよ、小麦粉、卵、パン粉の順につけて、中温でパチパチいったら完成です」「本当ですか」

 いよいよ決戦の日。うまく揚がったのだ。小麦粉まみれになり格闘する母の横で、娘はキュウリとコーンのサラダを作ってくれた。熱々にかぶりつく。うまい。

 やるまでは腰が重いがやってみたら簡単だった。そんなことがある。これからはまず動こう。悩むのは動いてからでいい。

 その夜、エプロンをしたまま寝落ちした情けない母。母のエプロンを外し、食器を下げ、テーブルを拭いて、それから眠った娘。

 「次はカニクリームコロッケお願いね」というむちゃぶりにも応えたいと思う。


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