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北極星

藤沢隆史(礼文町教委主任学芸員)*思いをのせた紙テープ  2016/03/25

 日中の日差しが暖かみを増し、雪解けが目に見えて進むこの時期、人々の動きが慌ただしさを増す。進学、就職、転勤など、子供から大人まで、新たな生活に少しの不安と大きな希望を抱いているだろう。

 3月末、島の玄関口のフェリーターミナルは、島外へ転出する先生を見送る人々で混雑する。在校生と保護者らが見送る風景は、この時期ならではの風物詩と言える。

 フェリーでの別れは独特な雰囲気が漂い、とても感傷的だ。この雰囲気をかもし出すのに一役買うのが、色とりどりの紙テープだ。

 このテープは、見送られる人の乗船時に合わせて、先端がフェリーの欄干にまとめてくくり付けられる。見送られる人はその前に立ち、見送る人々が根元を持って出港を待つ。

 出港までの数分間、見送られる人は、さまざまな色のテープの向こうに見送る人々の姿を見つめる。さまざまな色は、さまざまな人の思いを表しているようにも見える。この時間は、見送る人と見送られる人が、紙テープによって互いに思いをかよわせる時間だ。

 出港の汽笛が鳴り、船が離れるにしたがってテープは伸び、切れてしまう。船が見えなくなるまで見送る人々。テープは切れても、学びやで過ごした思い出が切れることはないだろう。

 別れの数日後には、先生をはじめ、新たに島内で働く人たちがやってくる。こうして、人々の心の中に新たな思いが生まれ、いつか来るであろう別れの日には、互いに思いをかよわせるのである。


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