北海道新聞旭川支社
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日曜談話室

小池大二郎さん(31)*環境省羽幌事務所の自然保護官*オロロン鳥の増殖に取り組む*習性生かし営巣地整備(2019年11月10日)
こいけ・だいじろう
1988年長野県上田市生まれ。北大農学部森林科学科卒。2012年環境省入り。本省環境影響審査室、釧路自然環境事務所、那覇自然環境事務所、慶良間自然保護官事務所、南アルプス自然保護官事務所を経て7月から現職。

 オロロン鳥の名で知られる絶滅危惧種の海鳥ウミガラスの国内唯一の繁殖地になっている天売島で今夏、過去20年で最多の23羽のヒナが巣立った。環境省羽幌自然保護官事務所の小池大二郎自然保護官(31)に、保護増殖の取り組みについて聞いた。(聞き手・羽幌支局 広瀬浩一、写真も)

 ――ウミガラスはどんな鳥ですか。

 「ウミガラスは体長約40センチ、体重は1キロ程度で、ペンギンに似ていて海の中を自在に泳ぎ、エサのイカナゴなどを捕食します。太平洋北部や北極海に分布し、海岸の断崖(だんがい)で集団営巣します。生態はまだよく分かっておらず、渡りの経路もはっきりしていません。天売島では島の南西部の『赤岩』対岸の岩棚に繁殖地があります。3月中旬ごろから飛来し始め、8月上旬に繁殖期を終えて島を巣立ちます。今年は過去20年で最多の62羽が飛来しました」

 ――1990年代に、ウミガラスは激減してしまいました。なぜですか。

 「天売島では60年代に8千羽が飛来していたと推定されています。減少した理由は、はっきりしません。繁殖地の環境の変化や、オオセグロカモメやハシブトガラスなど、ヒナの捕食者の増加、漁網による混獲などの要因が複雑に絡み合っているのではないかと考えられています」

 ――どのようにして保護に取り組んでいるのですか。

 「群れる習性があるため、営巣地の岩棚に、90年から営巣を誘引するデコイ(模型)を配置し、おびき寄せています。日中、独特の鳴き声をスピーカーから流し、親鳥が安心して抱卵できる環境をつくっています。巣立ったばかりのヒナは、親鳥がエサを求めて巣を離れている間に、捕食者の鳥に狙われます。捕食者が中に入りづらいよう、デコイを配置しています。2011年からは、捕食者のハシブトガラスやオオセグロカモメを空気銃で駆除しています」

 ――9年連続でヒナの巣立ちに成功していますね。

 「ヒナはおよそ5年で繁殖可能になります。5年前の2014年以降、毎年10羽以上が巣立っており、天売で生まれたヒナが繁殖個体になって島に戻ってきている可能性があります。まずはこの流れを絶やすことなく、現在の保護対策を継続します。絶滅危惧種の復活に特効薬はありません。繁殖地の環境を良くする地道な取り組みを続けて、安定的な繁殖活動を維持できるようにするのが当面の目標です」

 ――羽幌事務所で今後、取り組んでみたいことは。

 「100万羽の海鳥が繁殖する天売島は海鳥の楽園です。海鳥の保護活動と観光の橋渡しをして、地域活性化につながるような仕組みを考えることができたら、と思っています」

*取材後記
 北大時代は山岳部に所属し、4年間、年間100日の山行をこなしたという。沖縄では海水温の上昇に伴い白化現象がみられるサンゴ保護、南アルプスでは高山植物を食い荒らすニホンジカ対策に汗を流した。世界のバードウオッチャー憧れの地で勤務できてうれしいと謙虚に語る。今冬は道北のピッシリ山(1032メートル)に山スキーに行く。久しぶりの北海道の雪が待ち遠しくて仕方ないようだ。


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