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日曜談話室

道内初 ジュニアドクター育成塾*高橋薫さん(65)*旭川工業高等専門学校校長*理系学ぶ意欲伸ばしたい(2019年10月13日掲載)
たかはし・かおる
宮城県米谷工業高卒。東京でシステムエンジニアとして働いた後、東北大学の技術職員、仙台高専(宮城)の教員などを経て、2016年4月から有明高専(福岡)の校長を務め、19年4月から現職。

 旭川工業高等専門学校は本年度、未来の科学者の卵を育てる「ジュニアドクター育成塾」の実施機関に道内で初めて選ばれた。世界に通用する研究者育成の土台づくりや理系に興味を持つ中高生の掘り起こしに力を入れる高橋薫校長(65)に、その意義や子どもたちの可能性について聞いた。(聞き手・旭川報道部 佐藤愛未、写真・打田達也)

 ――養成塾の開講は道内唯一だそうですね。

 「文部科学省所管の科学技術振興機構(JST)が国際的に活躍する科学技術者を生むために運営するプロジェクトで、理工系の人材を発掘し、その才能を大きく伸ばしていこうとするものです。事業は5年間。本年度は2年間のプログラムで、小学5年から中学3年を募集したところ、定員40人に対して全道各地から70人の応募がありました。7月の開講式では、学びたい意欲が強い塾生たちの輝く目が印象的でした。北海道には理工系に興味のある子どもが多いと感じました」

 ――講義内容は。

 「分野をまたいだ体験講座や施設見学などを展開します。本校には『機械システム』『電気情報』『システム制御情報』『物質化学』の4工学科がありますが、学科の垣根を越え、最先端の科学技術を活用した研究ができるのが特徴です。地元企業と連携して、農業問題の解決や介護支援ロボットの研究にも取り組んでいます。こうした本校ならではの特色を、ジュニアドクターの講義でも取り入れていくつもりです」

 ――女子生徒に理系に興味を持ってもらう活動にも力を入れていますね。

 「理系分野への女子中高生の進学を支援するJSTの本年度のプログラムにも同時に選ばれたので、物づくりイベントや関連企業を巡るバスツアーなどを開催しています。技術分野は男性の比率が高く、本校も女子生徒は2割弱、ジュニアドクターの塾生も女子は3割弱ですが、コツコツ深く探求する点などは女性の方が優れています。女性にも世界に通用する技術を持つ会社の要職についてほしい。そのためにも、もっと理系に関心を持ってもらい、理系分野への進学や就職をしてもらいたいと願っています」

 ――旭高専の取り組みに期待がかかります。

 「日本の20年先を技術で支える人材を送り出したいと思っています。本校の生徒はもちろん、ジュニアドクターの塾生は、未来の技術を支えるために発掘された子どもたちです。日本だけでなく、世界を見据えて活躍できる人が増えてほしいですし、そんな人材を育て、増やすことが本校の使命だと考えています」

*取材後記
 冗談を交えながらの笑いの絶えない取材だったが、理工系の高等教育機関が道北では旭高専のみとの話題になると表情を一変させた。「だからこそ本校の持つ責任と役割は大きい。子どもの学びたい意欲を止めずに伸ばしてあげたい」。高橋校長の決意に満ちたまなざしが忘れられない。ノーベル化学賞に決まった吉野彰さんのように世界を代表する研究者が道北から生まれる日も、そう遠い未来の話ではないのかもしれない。


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