北海道新聞旭川支社
Hokkaido shimbun press Asahikawa branch

日曜談話室

秋津裕志さん(59)*林産試験場研究主幹*シラカバの用途拡大図る*家具や楽器に バットも試作 (2019年9月15日掲載)
あきつ・ひろし
1960年、大阪市生まれ。高校時代から山登りが好きで日本アルプスに囲まれた信州大農学部に進学。大手住宅メーカーの工場勤務を経て、京都大大学院で木材研究に打ち込む。93年に林産試験場に入り、仏モンペリエ第2大客員研究員の経験もある。

 資源が豊富なシラカバをもっと利用できないか―。道立総合研究機構林産試験場(旭川)の秋津裕志研究主幹(59)は、主に製紙用チップとして使われるカバ類の用途を楽器などに広げる研究に取り組む。道民になじみ深いシラカバが秘める可能性について聞いた。(聞き手・旭川報道部 山村晋、写真・舘山国敏)

 ――シラカバを研究素材に選んだのはなぜですか。

 「20年前、住宅建材などに含まれる化学物質が健康被害を引き起こすシックハウス症候群が問題になり、対応を任されました。においまで原因のように言われ、『マイナス評価をゼロに戻す研究をしよう』と心に決めました。シラカバは香りがなく、9割が製紙用チップとして使われていて安く手に入ります。山火事の後、いち早く育つなど生命力が強く、道内の広葉樹の4分の1を占める資源量にも魅力を感じました」

 ――研究で何が分かりましたか。

 「シラカバは樹齢60年で、幹は直径40センチ以下と細い。ただ、6年前から始めた研究で、家具にも使える十分な強度があることが分かりました。工夫すれば、フローリングの合板にもできます。標高200メートル以上に分布するシラカバの仲間のダケカンバはさらに強度があります」

 ――家具の他には?

 「エレキギターに使えます。材料となるメイプルやマホガニーの輸入が制限されるようになり、京都大と4年前に共同研究に着手。カバ類はメイプルに近い音響特性で、代替材として通用することが分かりました。弦を張るネック部分は強度のあるダケカンバが適しており、2年前から楽器販売の島村楽器(東京)が量産を検討しています。8弦のマンドリンでは音がひずまず、音質が向上すると評価されています」

 ――そのほかの用途は?

 「かつて道産アオダモが使われた野球バットも今や外国からの輸入頼みです。富山県のメーカーと京大と協力し、アマチュア用硬式バットを試作。次にプロ用6本を作り、8月にプロ野球北海道日本ハムの田中賢介選手らに試打を依頼すると、『メイプルに近い感覚。試合でも使える』と評価されました」

 ――秋津さんの呼び掛けがきっかけでシラカバの利用促進を図る「白樺プロジェクト」が発足しました。

 「旭川の家具メーカーや建築家、林業家らで立ち上げ、6月の旭川デザインウイークに家具などを出品。独特の白い樹皮を生かした椅子やテーブルが好評でした。プロジェクトの合言葉は『森から始まる』。シラカバの樹液は飲用や化粧水にもなります。持続可能な資源としてもっと注目されていいと思います」

*取材後記
 安価な材木をホルムアルデヒドや酢酸などで化学処理をして特性を変える大学院時代の研究が縁で、シックハウス症候群の専門家になったという。固定観念にとらわれない柔らかい発想力と、研究を形にする行動力を持ち合わせた人だ。ダケカンバ製バットを田中賢介選手に寄贈するに当たり、「このバットを使って活躍してほしい」とエールを送る。表情が研究者から野球ファンに変わっていた。


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