北海道新聞旭川支社
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日曜談話室

川端慎治さん(49)*上川大雪酒造杜氏*3シーズン目迎える全量純米蔵*辛口、白麹…手探り続く (2019年8月25日掲載)
かわばた・しんじ
1969年、小樽市生まれ。金沢大工学部に進学後、日本酒のおいしさに目覚める。本州各地で酒造りを経験し、空知管内新十津川町の金滴酒造へ。地元産吟風で仕込んだ大吟醸酒が全国新酒鑑評会で金賞を受賞し脚光を浴びる。2016年より上川大雪酒造の立ち上げに携わる。

 【上川】道内12番目の酒蔵として2017年に上川町で誕生し、道産米を使った純米酒だけを醸し続ける上川大雪酒造の「緑丘蔵(りょっきゅうぐら)」。帯広畜産大の構内に第2工場を開設することも明らかにし、その戦略に注目が集まる。10月に始まる3シーズン目の仕込みに向け、杜氏(とうじ)の川端慎治さん(49)に意気込みを聞いた。(聞き手・旭川報道部 石田悦啓、写真・打田達也)

 ――2年が過ぎました。川端さんが掲げる「飲まさる酒」(すいすい飲める酒)の現状はどうなっていますか。

 「最初のシーズンはタンク54本を48通りの方法で仕込みました。2シーズン目は60本をほぼ30通りで。どういった仕込みがいいのか、米や酵母などの組み合わせを手探りで変えながら、絞り込みを進めました。ただ、その結果、味が似てきてしまった。もう少し違うキャラクターの酒をそろえていきたいと考えています」

 ――新たな酒のイメージは。

 「今年6月ごろに、吟風(道産の酒造好適米)を使った『辛口』を初めて出しました。本州米に比べ道産米は味が出にくいので、辛口にすると酒質がさらに薄っぺらくなるのでは、という思いがありました。ところが小売店からの要望で、試しに仕込んでみたところ、ものすごく評判がいい。3シーズン目もバリエーションに加えようと思っています」

 ――一般的な黄麹(こうじ)ではなく、焼酎に使うことが多い白麹で仕込んだ夏酒がファンの間で話題になっています。

 「かんきつ系の酸味が特徴です。三国清三シェフと当社の社長が町内でレストランを共同経営していますが、そうした場所で飲む、ライトな白ワインよりライトな日本酒が欲しいと考えていました」

 ――地元限定酒を除き、蔵元直送の特約店でしか買えないことから、一部に「幻の酒」などという声もあります。

 「それは最初の年に限っての話です。風評被害みたいなところもあって…。道外の特約店は東京3店、三重と福岡各1店だけですが、道内は27店ある。ネット通販もある。価格設定が若干高めに見られるのと、4合瓶しかないということもあり、居酒屋などが仕入れにくいという面はあるかもしれません」

 ――来夏にも出荷を始める帯広の工場の将来像は。

 「精米歩合などの規格を上川よりも緩めにしたり、(アルコールを添加する)本醸造酒を仕込んだりすることも検討中です。上川を第1ブランドとすれば、帯広は第2ブランドの位置付けで、酒卸を通じて販路を積極的に広げたいと考えています。将来的には海外輸出も視野に入れています」

*取材後記
 滝川勤務時代、隣町の金滴酒造に川端さんがいた。そのとき飲んだ独特の酸味が特徴の、ある山廃(やまはい)純米酒が忘れられない。地元飲食店からは「腐っているのでは」とのクレームが入ったそうだ。「飲まさる酒」とは異次元の味わい。日本酒の奥の深さを感じさせてくれた1本だった。インタビューを終え、思わず「またあれ飲みたいです」と懇願してしまった。飲んべえのたわ言、聞き流してください。


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