北海道新聞旭川支社
Hokkaido shimbun press Asahikawa branch

日曜談話室

木田尚史さん(57)*エフ・ドライブデザイン社長*知恵絞り飲食店空間創る*旭川家具を担う若者に挑戦の舞台 (2019年7月14日)
きだ・なおし
1962年、空知管内上砂川町生まれ。高校卒業後、北見の職業訓練校で家具の図面の描き方を学ぶ。旭川や近郊の家具工場の勤務を経て36歳で独立。2000年、38歳の時、旭川で意匠・設計会社「エフ・ドライブデザイン」を立ち上げた。

 旭川家具やクラフトのメーカー約30社が展示ブースを設ける旭川デザインセンター(旭川市永山2の10)隣に今月下旬、カフェ&ダイニング「パレンタ」がオープンする。建物のデザインを手掛けたのは旭川家具を担う若者たち21人。「パレンタは未来への投資」と語る、仕掛け人でエフ・ドライブデザイン(旭川)社長の木田尚史さん(57)に思いを聞いた。(聞き手・旭川報道部山中いずみ、写真・舘山国敏)

 ――パレンタ開設のきっかけは。

 「店の建物は元々、2年前から空き家になっていた旭川家具工業協同組合の旧事務所です。私は組合理事で、再活用策の担当として借り手を探しましたが、なかなか見つからず、自ら旭川家具と地元食材を融合した飲食店にしようと考えました。2階建てで広さは約330平方メートル。1階がパレンタ、2階に木工クラフトや家具のセレクトショップと会社の事務所を設ける予定で、建物全体のデザインを旭川家具に携わる若者に任せたら面白いのでは、と思いつきました」

 ――なぜ若者に任せようと思ったのですか。

 「私の会社は住宅やホテル、商業施設などの特注家具を扱っています。工場はありません。私が依頼主の要望を聞いて図面を描き、旭川と近郊の熟練の家具職人に作ってもらいます。20代から旭川家具の工場で働き、もの作りや営業を学びました。その人脈が今の仕事につながっています。10年ほど前、カンディハウス創業者の長原実さんに、米国の家具業界の視察旅行に誘ってもらい、大いに刺激を受けました。私も50代後半になり、長原さんのように次世代のためになることをしたいと考えました」

 ――若者たちの反応は。

 「1月に参加を呼び掛けると、20~30代を中心に家具職人やデザイナーらが集まりました。皆、建物を丸ごとデザインするという経験はなく、大きな挑戦です。仕事として対価が払われるわけではないが、1日の仕事を終えた後でも『もっと学びたい』とエネルギーにあふれた若者が21人も集まったことがうれしかった。半年という短い期間の中で、太陽光を再現できる特殊な照明や、一本の木で作った大きなスピーカーなど旭川にしかない唯一無二の空間を創ってくれました」

 ――今後の展開は。

 「パレンタの挑戦は始まったばかりです。イベントができるステージフロアを設け、オリジナルの椅子やソファを作り販売する計画もあります。料理も地元食材にこだわり、洋食を中心に出す予定です。旭川家具に携わる若者が、職場の垣根を越えて新しいことに挑戦していく舞台。パレンタに来ると何か新しいものに出会える、そんな情報発信拠点になればと思います」*取材後記

 高校時代の愛読書はロック歌手矢沢永吉さんの自叙伝「成りあがり」だという。歌手デビューの夢へと一途に突き進んだ矢沢さんの生き方は、今も木田さんの心を揺さぶるそう。「高校時代の同級生に会うと『やるからには1番になりたいって、昔から口にしていた』とよく言われる。自分は周りに話した覚えがないんだけど」と木田さん。大きな夢があると、人は無意識に思いが口を突いて出るのかもしれない。

*取材後記

 まちの将来を語る話しぶりから、豊かな発想力と若い人の力がうかがわれた。リスクを承知で従来の枠にはまらず、果敢に店舗開業を目指す姿勢はまさに「挑戦者」の言葉が当てはまる。他のまちでも目抜き通りで多くの空き店舗が並ぶ「シャッター街」を目にすることがあるが、挑戦者が新たなまちづくりの可能性を呼び込み、次世代のまちづくりを担う若手が育っていると実感した。


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