北海道新聞旭川支社
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日曜談話室

岡崎哲三さん(44)*大雪山・山守隊の代表*荒廃する登山道の修復に尽力*山に恩返し 植生回復図る(2019年6月23日)
おかざき・てつぞう
札幌市出身。札幌西高定時制を卒業後、上川町の黒岳石室や高原温泉ヒグマ情報センター勤務を経て2011年、合同会社「北海道山岳整備」を設立。18年、一般社団法人「大雪山・山守隊」を立ち上げた。当麻町で農業も営み、妻、娘2人と暮らす。

 登山愛好者でつくる一般社団法人大雪山(だいせつざん)・山守(やまもり)隊(当麻町)が、大雪山系の登山道修復や周囲の高山植物の植生回復に力を入れている。大勢のボランティアと一緒に汗を流す代表の岡崎哲三さん(44)に、意義や活動にかける思いを聞いた。(聞き手・山村晋、写真・宮永春希)

 ――登山道の現状を教えてください。

 「沿道の浸食が進み、大雨であちこち崩れています。はじめに登山者が道を踏んで裸地となり、そこを雨水や雪解け水が流れる。登山者はこの溝を避け、周りの高山植物を踏みつけて裸地がさらに広がる。踏み固められ、広がった道は秋と春に凍結と融解を繰り返して崩れるのです。広大な大雪山国立公園の登山道は総延長が300キロ以上。指定から80年以上が経ち、管理する国や道による補修が追いつきません」

 ――これに対して山守隊はどんな活動を。

 「環境省や道、北大の研究者と協力し、ボランティアの力を借りて登山道を修復しています。山守隊は登山好きの仲間たちと、大雪山系への『恩返し』を合言葉に2017年に結成しました。18年度は6回の活動に延べ250人が参加しました。今年5月には50人が集まり、そりを使って旭岳の裾野に木道補修用の木材を運び込む作業をしました」

 ――登山道を修復する方法を教えてください。

 「浸食が進んだ道に、人の手で復元のきっかけを与える近自然工法に取り組んでいます。特別な重機などは使いません。自然は千差万別。その場の状況に合わせて修復方法を考え、材料には現地の土や石、木などを利用します。裾合平やトムラウシ山では4年前から、ヤシの繊維を編んだネットに土を入れた補修材を活用。崩れた土手に並べ、土砂をせき止めています。そこに種を落としたチングルマが発芽し、植生の回復が始まりました。何年後かに花が咲き、何十年後かには花々に覆われる日が来るでしょう」

 ――植生が回復すれば、登山道を維持できると。

 「そうです。登山道の土手に植物が根を張れば、浸食されにくい環境が整います。従来の土木工事だと歩きやすくはなりますが、自然の再生にはつながりません。近自然工法は04年、高知県を拠点に活動していたこの道の第一人者の福留脩文(しゅうぶん)さん(故人)から教わりました。『自然を直す技術は自然の中にある。自然をまねしろ』が彼の口癖で、私もそれを守って活動しています。今では四国の剣山や小笠原諸島、東京の高尾山などで活動する団体に近自然工法を伝えています。この優れた工法を多くの人に知ってもらい、全国の山々の再生に貢献したいです」

*取材後記

 まちの将来を語る話しぶりから、豊かな発想力と若い人の力がうかがわれた。リスクを承知で従来の枠にはまらず、果敢に店舗開業を目指す姿勢はまさに「挑戦者」の言葉が当てはまる。他のまちでも目抜き通りで多くの空き店舗が並ぶ「シャッター街」を目にすることがあるが、挑戦者が新たなまちづくりの可能性を呼び込み、次世代のまちづくりを担う若手が育っていると実感した。


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