北海道新聞旭川支社
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日曜談話室

斉藤吉広さん(58)*稚内北星学園大学長*開学20年目 ユニーク制度次々*地域密着さらに深める 2019/05/19
さいとう・よしひろ
旭川市出身。一橋大社会学部卒、同大大学院博士後期課程中退。都留文科大などで非常勤講師を務めた後、2000年に稚内北星学園大の講師に。09年から教授、15年に学長に就任した。1996年設立の首都圏大学非常勤講師組合の初代委員長も務めた。専門はメディアと社会。

 2000年4月に短大から四年制大学に移行して開学し、今年で20年目を迎えた稚内北星学園大。宗谷管内唯一の大学として、小規模ながらも独自の取り組みで地域に密着してきた。これまでの歩みと大学の役割について、斉藤吉広学長(58)に聞いた。(聞き手・稚内支局 岩崎志帆、写真も)


 ――ユニークな修学サポート制度がありますね。

 「アトピー性皮膚炎の治療のため豊富温泉へ湯治に通う学生に、学費減免をしています。私自身が乾癬(かんせん)を患っていた時に温泉に通いました。また、学生がドキュメント映像を制作したことをきっかけに豊富町の方々と縁ができ、大学に通えないほど症状が重く、学ぶ機会を奪われている人も多いことを知りました」

 ――カーリングの特待生制度もユニークです。

 「稚内市内にカーリング場が新設されるため、マチの活性化につなげたいと設けました。経験者が入り、カーリング部は強くなってきています。全国的に活躍し、稚内市内でもカーリングに対する期待が膨らみ、競技人口が増えればと思います。この地域に人が移り住む一つの理由になれば、理想的です」

 ――ネパール人留学生が近年大幅に増えています。

 「本学の学生だったネパール出身の教授を頼って、来日する学生が増えています。教室では日本人と隣り合って座り、会話するなど自然につきあっています。アルバイトなども通じて、日本の文化や言葉にも慣れてきました。お祭りや市民英会話講座を手伝ってくれており、地域との交流も盛んです」

 ――大学の強みは。

 「全国で初めて情報メディア学部を開設、情報技術系の単科大学としてプログラミングや情報の基礎を学べます。お家芸は映像のドキュメント制作で、全国コンテストで毎年数多くの賞を受賞しています。テレビ局のプロデューサーを招いて、何年間か短期講座を開いたのが始まりです。学生たちは授業以外でも作品を撮るようになり、映像制作のNPO法人を立ち上げました。綿密な取材で地域に密着した作品が多く、映像制作を依頼されることも増えました」

 ――稚内に大学がある意義とは。

 「身近な高等教育機関としての存在意義だけでなく、公設民営の大学として地域貢献の役割も担っています。14~18年度に文部科学省の地域貢献事業の一環で、市街地に交流拠点『まちなかメディアラボ』を設け、市民のニーズも探ってきました。今後は市民講座やイベントに反映し、地域との交流を続けたい。大学は教養などの『考える力』と、地域で活躍する『即戦力』の両方を育てる場だと思います。市内の高校や中学と、授業の内容でも連携できるような仕組みを作りたいと考えています」

*取材後記

 「調べてみると結構面白くてね」と教えてくれる地域の歴史や逸話が興味深い。学長が一昨年設立した研究機関「宗谷地域研究所」は、道北の鉄路とマチの変遷をデータとして地図に落とし込むデータベースづくりを順調に進めている。「こんなの入れたらきっと面白いという情報を入れている。大変だけど」と笑う。学長ならではの視点で見せてくれる地域のさまざまな側面に、ワクワクした。


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