北海道新聞旭川支社
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日曜談話室

那須敦志さん(61)*郷土史家*旭川の歴史市民劇 脚本担当*故郷の「青年期」描く成長譚 2019/04/21
 なす・あつし
1957年旭川市生まれ。旭川北高卒。高校3年の時に地元劇団「河」の舞台に刺激を受け、明治大学文学部に進んで演劇学を学んだ。82年NHKに入局。道内勤務が長く主にニュース番組の制作に携わる。現在NHKサービスセンター札幌支局長。

 「旭川青春グラフィティ ザ・ゴールデンエイジ」と題した歴史市民劇を2020年8月に上演する動きが旭川で始まっている。時代設定は大正末期から昭和の初めにかけてで、脚本を書いたのは元NHK旭川放送局長の那須敦志さん(61)=札幌市南区=。「活力にあふれた時代のことを知ってほしい」という郷土史家に見どころなどを聞いた。(聞き手・佐藤洋樹、写真・舘山国敏)

 ――脚本はもともと市民劇のために?

 「いいえ、郷土史研究が先なんです。劇の舞台に選んだ1924年(大正13年)~28年(昭和3年)は、僕の中では旭川文化史のゴールデンエイジ(黄金時代)。詩人の小熊秀雄や画家の高橋北修ら20代の若き才能が活躍し、そこに歌人の斎藤史、若山牧水らが外から来て互いに刺激し合った。ふるさとの旭川で昔『ああ、文化人同士のこんな交わりがあったのか』と思うと、ストーリーや場面がどんどん浮かんできて。登場人物が勝手に動き出し、旭川の歴史が書かせてくれた気がしています」

 ――上演への動きは?

 「色気が出てきたんですね。脚本だけでは芝居は完結しませんから。旭川の演劇関係者に脚本を見てもらうと、市民劇形式で上演したらいい―とお話をいただいたのです。郷土史劇と言っても、まちの通史ではなく時代を絞った一点突破型なのも面白いと評価を受けました。僕の思いは、芝居を通じて旭川の歴史を知ってほしいということ。一般の方に参加してもらう意義は大きいと感じ、実行委員会をつくって上演を目指すことになりました」

 ――知ってほしい歴史とは。

 「旭川村の開村が1890年(明治23年)で、市制施行が1922年(大正11年)。劇の時代背景は旭川のまちが青年期に入ったころです。まちづくりの担い手が、食べるのに精いっぱいだった開拓1世から少しだけゆとりの出てきた2世へと移り変わった時代。劇は10代の架空の若者5人が主人公で、旭川に実在したエネルギッシュな文化人に刺激を受け、生きる道を見つけていく成長譚(たん)です。今の旭川を見ていて、もっともっと若い人が前面に出てきてほしいとの思いもあります。だから10代の5人の役は高校生や大学生に演じてほしいし、彼らの友達にも見に来てほしい」

 ――今後の予定は。

 「6月のオーディションでキャスト、スタッフが決まります。演劇未経験の方から『敷居が高い』『足を引っ張るのでは』との声を聞きますが、仲間になって楽しみましょう。その後、時代背景や登場人物について学ぶセミナーを開きます。これを一般市民にも公開したい。市民劇は、関わった全ての人がやって良かったと笑顔で終わるのが一番の目的ですから」

*取材後記

 郷土史にのめり込んだのは、2010年から4年間の旭川放送局長時代からだそう。「NHKにある旭川の古い映像を調べるうちに『こんなことまで分かるのか』と驚かされたのが決定的だった」。本格的な研究者ではない、と前置きした上で「講演やブログなどを通じて、分かりやすい切り口で旭川のことを伝える活動を続けたい」。ソフトな語り口に、愛するふるさとへの熱い思いを感じた。


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