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日曜談話室

アリョーナさん(39)*4カ月ぶりに音楽教室を再開するサックス奏者*火災を乗り越えて*楽しく音楽 気持ち不変  2019/02/17
本名はクリボルカ・オレナ。ウクライナ東部のルガンスク出身。幼い頃からピアノやギター、ドラムを習い、大学ではボーカルとサックスを学んだ。旭川には2004年、演奏活動で初めて訪れ06年に移住。ジャズバーを経営後、16年4月に音楽教室を開いた。造園業を営む夫と2人暮らし。

 主宰する音楽教室が入居していた旭川市内の建物で昨年10月に火災が起き、焼け出された。それから4カ月。ウクライナ出身で旭川に住むサックス奏者のアリョーナさん(39)が今月22日、教室を再開する。「楽しく音楽をやりましょうとの気持ちは変わらない」と話すアリョーナさん。新たに教室を構えるマンションの一室を訪ねた。(聞き手・佐藤洋樹、写真・打田達也)

 ――大変でしたね。

 「その日の教室の準備に出かけたら『建物から煙が出ている』と騒ぎになっていました。持ち出せたのはサックス1台とパソコンのハードディスクだけ。ドラムやキーボードなど他の楽器や譜面、音響機器も焼けてしまった。教室を開いてから2年半、一生懸命仕事してきたのに何もかも失い、落ち込みました。でも今は気持ちを塗り替えました。笑ったりしゃべったりできるようになりました」

 ――旭川に移住して足かけ14年だそうですね。

 「17歳の頃から箸で食事をしていたくらいで、日本文化に興味がありましたが、演奏活動で訪れた旭川は緯度も近い祖国の気候に似ていて気に入りました。東京や大阪のような大きな街は、仕事はあるけれど疲れます。ハムスターみたいにくるくる走り回る気にはなれない。旭川なら、1時間ちょっとで自然の豊かな層雲峡にも海のある留萌にも行けます。自分の幸せとは何だろうと、自分の心に質問して決めたのです。食べ物もおいしいですしね」

 ――音楽とは何ですか。

 「人間の気持ち、ではないでしょうか。狩猟生活をしていた大昔、獲物にしたマンモスの骨を太鼓のバチのようにしてたたいたり、弓の弦を鳴らしたりして喜びを表したのと同じです。喜びも悲しみも、大きくなればその気持ちを音にして乗せたい、音楽にしたいと思うのでは。だから教室では『自分の気持ちを好きな曲に乗せて音にしましょう』と教えています」

 ――でも楽器を始めるハードルは高い。

 「音楽は譜面じゃないのですよ。最初はカラオケで歌っている曲をドレミで覚えればいい。サックスなら好きな曲を吹きながら、腹式呼吸や唇の形、指の運び方などの基本を身につけ、そのうち譜面を読めるようになればいいのです」

 ――いよいよ教室再開です。

 「60人ほどいた生徒さんがどれくらい戻ってきてくれるかなと、ちょっと心配。教えるのはテナー、アルト、ソプラノサックスとボーカル。ドラムは焼けたので教えることができなくなりましたが、いつか宝くじでも当たったらと、神様に祈ります。それは冗談ですが、今はこつこつとやるだけです」

*取材後記
「オフィスアリョーナ」((電)090・8630・6413)のマネジャー辻村里美さんによると、アリョーナさんは何でも挑戦してみないと気の済まない人。多くの楽器や音楽ジャンルを学んだのもその好奇心からで「人生は一度きりですからね。全ては試せませんが」「演歌以外ならオペラもジャズも教えます」。音楽の才能に恵まれた人は言葉も豊かだ。国内情勢が不安定な祖国の話になると、肉親を心配して表情が陰った。


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