北海道新聞旭川支社
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ヒューマン

辻紀子さん(60)*北・北海道臨床倫理研究会代表*患者の尊厳重視したケア広げる*人生 理解し寄り添う 2018/09/16
つじ・のりこ
1958年、旭川市生まれ。旭川市医師会看護専門学校を卒業後、旭川厚生病院や道立旭川肢体不自由児総合療育センターなどでの看護師勤務を経て、2003年に訪問看護ステーション「モモ」を設立。今年3月、市民団体「北・北海道臨床倫理研究会」を発足し代表に就いた。

 患者の尊厳を重視したケアを浸透させようと、旭川の医療や介護関係者が3月、市民団体「北・北海道臨床倫理研究会」を発足した。呼びかけ人の訪問看護ステーション「モモ」所長の辻紀子さん(60)に、活動に込める思いを聞いた。(聞き手・旭川報道部 久保田昌子、写真・大島拓人)

 ――団体名にある臨床倫理とは何ですか。

 「患者一人一人に人生があり物語があることを理解し、その人に寄り添ったケアをすることです。医療現場は医療者が上、患者が下といった上下関係が生まれがち。けれど本来は対等なはず。医療者は患者や家族にとって何が最善かを考えて治療の選択肢を示し、患者が納得して選択するためのお手伝いをします」

 ――研究会を立ち上げたきっかけは。

 「根底には16年前に母をみとった経験があります。母は膵臓(すいぞう)がんで余命3カ月と宣告され在宅でみとりました。自分が患者の家族になってみて初めて、家族の思いや苦悩に気付きました。当時道立病院の看護師でしたが、分かったつもりで分かっていなかった。医療者として一からやり直したいと思い、道職員を退職。46歳の時に訪問看護ステーションを立ち上げました」

 ――訪問看護の現場で感じたことは。

 「ある担当患者が在宅から病院に入院したとたん身体拘束されました。転倒の危険や自ら点滴を抜いてしまうことなどを心配してのことですが、自宅で穏やかに暮らしていた人が突然手足の自由を奪われ、本当に悲しかった。厚生労働省は徘徊(はいかい)しないようベッドに体を縛るといった行為を原則禁止していますが、現場では患者の安全のためといい、まかり通っているのが実情。一方で拘束ゼロの病院もある。患者の尊厳を守る『臨床倫理』を道北でも浸透させなければならないと強く思いました」

 ――研究会が8月に市内で開いた検討会の手応えは。

 「看護師やケアマネジャーら約170人が道北各地から集まり、実際のがん患者の治療例を取り上げ、『医療者は家族の思いを理解できていたか』などの視点で議論しました。参加者からは『現場で試みたい』と前向きな意見が出ました。私の事業所でも定期的に検討会を開き、患者との接し方や治療法を多角的に話し合い、患者を深く理解するのに役立っています」

 ――国は在宅や施設でのみとりを推進する方針を示しています。

 「看護師3人で始めた事業所は現在32人に増え、患者約200人の在宅医療をサポートしています。この仕事で人生最期の貴重な時間に立ち会うたび、患者から大きな学びをもらっていると感じます。病院は病気を治す場所なのに対し、在宅は病気を持ちながらその人の生活を支えていく場所。だからこそ医療者は患者がどんな人生を望んでいるか。家族に不安はないのか。そういったことを深く知る必要があります。研究会を通して共感する仲間を少しずつ増やしていきたいと思います」


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