北海道新聞旭川支社
Hokkaido shimbun press Asahikawa branch

ヒューマン

村上富一さん(60)*旭川東署地域官*大雪山系の山岳救助を担う*事故の教訓 救助に生かす 2018/07/15
むらかみ・とみかず
1958年、空知管内上砂川町生まれ。砂川北高の山岳部に所属し、同管内のピンネシリや芦別岳などを登る。76年道警入りし、本部機動隊レンジャー、地域企画課課長補佐などを歴任。富良野署や新得署などで勤務し、山岳遭難などの救助体制づくりに努めた。今年3月に定年退職し、再任用で4月から現職。

 道内外から多くの登山愛好家が訪れる旭岳(2291メートル)や黒岳(1984メートル)で知られる大雪山系。旭川東署の村上富一さん(60)は今春、大雪山系の山岳救助を担う地域官に着任し、若手隊員の育成に努めている。道警きっての山のエキスパートに、現在の体制や取り組み、登山の注意点などを聞いた。(聞き手・旭川報道部 山村晋、写真・吉川幹弘)

 ――道警山岳遭難救助隊について教えてください。

 「1973年に創設され、道警本部(札幌)を中心に全道各署に計約90人が配属されています。旭川東署は今春2人増えて4人体制になりました。大雪山系は、本州の3千メートル級の山々に匹敵する厳しい気候。遭難時の救助は一刻を争います。110番から1時間ほどで装備を整え、札幌からの応援部隊に先駆けて現地に向かいます」

 ――近年、救助の仕方に変化はありますか。

 「かつては遭難者を早く見つけ、早く下山させることを重視していました。それが2009年7月に大雪山系トムラウシ山で、ツアー客ら8人が低体温症などで死亡する遭難事故が発生。10年に山岳救助隊全体を指揮する指導官に着任したのを機に対策に着手し、札幌の国際山岳医らと救助の仕方を見直しました。そして2年前、低体温に陥った身体を湯たんぽなどを使って現場で温め、回復を図る方法を確立しました」

 ――なぜ山岳救助の仕事を目指したのですか。

 「高校時代に山岳部に所属し、もともと登山が好きでした。初任地の札幌南署で山菜採りや冬山などの遭難救助を手掛け、大きなやりがいを感じました。山岳遭難に加え、道警初の水難救助ダイバーとなり、レスキューマンとしての経験を重ねました」

 ――若手隊員の育成について教えてください。

 「若手には失敗から学ぶように指導しています。高校3年の時、冬の十勝岳に単独で登り、技術の未熟さや装備不足から遭難しかけました。人間、苦い体験は忘れません。訓練では、あえて若手に失敗させた後、知識や技術を教えています。そうすると早く覚えてくれます」

 ――遭難防止にどんな活動をしていますか。

 「登山者が技術と知識を身につければ、遭難は必ず減らせる。旭川東署管内では昨年、30件の山岳遭難が発生し、うち14件が6、7月に集中しています。道迷いや滑落などが原因です。従来の山岳パトロールに加え、6月の週末に旭岳と黒岳で天候や装備などについて登山者に助言する啓発活動を行いました。山の情報を事前に調べて防寒対策をしっかり講じ、衛星利用測位システム(GPS)付き携帯電話を持参して登山してほしいと思います」


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