北海道新聞旭川支社
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ヒューマン

長谷部真さん(41)*NPO法人「サロベツ・エコ・ネットワーク」職員*サロベツ湿原を調査研究*渡り鳥の繁殖地 保全に力  2018/06/24
はせべ・まこと 
1976年、東京都生まれ。明治大文学部卒業後、オーストラリアのノーザン・テリトリー大(現チャールズ・ダーウィン大)大学院に留学し環境学を専攻。帰国後、道内の環境調査会社を経て2009年、北海道海鳥センターの自然保護専門員に。15年4月から現職。

 北海道海鳥センター(羽幌町)の自然保護専門員から、NPO法人サロベツ・エコ・ネットワークの事務局職員に転身して今春で丸3年が過ぎた長谷部真さん(41)。サロベツ湿原センターを拠点に環境保全事業に昼夜、奔走する毎日だ。サロベツ湿原(幌延、豊富町)の広いフィールドでの調査研究にあたり4年目を迎えた今、あらためて原野の魅力、環境保全への思いを聞いた。(聞き手・天塩支局 福田講平、写真も)

 ――今の仕事の内容は。

 「チュウヒやシマアオジ、ワシ、ガンの調査です。今の時期は繁殖期なので、早ければ朝4時に調査に出掛けて、昼ごろに帰ってくる生活です。営巣地にヒナがいるか、餌を運んでいるのかなどを調べています」

 ――海鳥センター時代との違いは何でしょうか。

 「調査対象が天売島だけだった海鳥センターに比べ、担当エリアが広い。鳥の種類もワシやガンなど多く、小鳥もたくさんいます。植物も多く、調査対象が広いので大変ですが、やりがいはあります。こんなにいろんな鳥が渡ってくる所はなかなか無い。地元の人は当たり前に思っていて、確かにシマフクロウとかタンチョウとか道東のように人目を引く鳥はいないけど、道東にはない魅力があります。オジロワシ、オオワシが渡る場所は道内でここしかありません」

 ――自然との出合いは。

 「東京生まれ、東京育ちですが、田舎に憧れていました。小さい頃から生き物図鑑ばかり見ていた。虫や魚、カエルが好きでしたね。子供の頃は東京でも周りには木が多くて池もありました。それがどんどんバブル経済の影響で開発が進み、なくなっていきました」

 ――国立公園に隣接する幌延町の浜里地区に風力発電を新たに建設する計画があります。渡り鳥のコースの場所に風車を建てたら、衝突死の懸念も。

 「風車を建てる以前に、そもそも国立公園の特別保護区に入るべき場所。サロベツの景観を楽しむ場所なのです。風景と一緒になった良い物があるんですから。鳥だけでもないし山だけでも湿原だけでもない。全体的に考えていかないといけません」

 ――今後の目標は。

 「海岸の砂丘林にカモの仲間のミコアイサが繁殖しています。ミコアイサ自体は渡り鳥として日本にいますが、繁殖地はここにしかない。その調査を行い、保全してもらう。またシマアオジやチュウヒが国立公園内ではなく未開発の農地にいるところがあります。チュウヒがいる環境は、他の小鳥などもたくさん。そういう意味ではすごく重要な鳥で、アンブレラ種(地域の生態ピラミッドの最高位に位置する種)と言われています。チュウヒが生育できる環境を保護することで、その傘下にある小鳥や湿原全体の保全にもつながる。そうした土地を購入して保全する『ナショナルトラスト』のような形を取っていきたいですね」


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