北海道新聞旭川支社
Hokkaido shimbun press Asahikawa branch

ヒューマン

出羽寛さん(74)*旭川大名誉教授*旭川の自然 もっと豊かに*生き物すむ緑地増やそう  2017/11/26
 でわ・ひろし
1943年、旭川市生まれ。旭川東高卒。横浜市立大の学生時代は探検部に所属。専門は動物生態学で、北大農学部大学院で研究を続けた後、旭川大講師(生物学)に。助教授を経て2009年まで教授。現在は嵐山ビジターセンター運営委員会、突哨山と身近な自然を考える会、オサラッペ・コウモリ研究所の代表。

 旭川は自然が豊かといわれるが本当か。突哨山(とっしょうざん)や嵐山といった、市民に身近な旭川近郊の丘陵部の環境保全に力を尽くしてきた旭川大名誉教授の出羽寛さん(74)に聞いた。(聞き手・旭川報道部 佐藤洋樹、写真・大島拓人)

 ――旭川の自然環境はどんな状態ですか。

 「横浜市の今昔の緑地分布図を見比べると、かつては3分の2ほどを占めていた緑地が今は散在しているだけ。旭川も開拓・開発で緑の量は減ったが、横浜に比べれば保全や復活に向け、まだ間に合うというべきでしょうか。昨年策定された旭川市の『第2次緑の基本計画』は、方向性はいい。ただ専門家の声がよく反映されていない。生物多様性をどう保つのか具体性が見えてこないことにつながっています」

 ――かねてから「緑のネットワーク」づくりを提唱していますね。

 「旭川にはもともと1975年に作られた『放射環状型緑化構想』がありました。市街地とその外側の農耕地との間に環状の緑地をつくり、石狩川などの河畔林とつなぐという優れたビジョンですが、市街地が郊外に拡散した現在では、土地を買い取っての緑化は難しい。動物のことも当時は考えられていなかった。緑のネットワークとは、生き物のすむ環境に目を向け、河畔林や丘陵部の自然を大切にしながら、市内の孤立した緑地につなげてゆく考え方です」

 ――具体的には。

 「僕が関わってきた突哨山は、地形を見ると上川盆地に突き出た『緑の岬』。それだけじゃなく『生き物の岬』でもあるのです。面積約220ヘクタールに1700種の動植物が暮らす突哨山は、さらに奥地の生き物たちを南端を流れる石狩川河畔を経て、市街地へと導く補給源でもあるのです。嵐山や旭山も含め、丘陵部が大切だという意味はそこにあります」

 ――自然を守るには市民の活動も大事です。

 「行政の政策には市民の協働が欠かせない。市民のオアシスである常磐公園の改修を巡っては、地面が土と芝生ばかりで生き物がすみづらいことから『ブッシュをつくるべきだ』と提言をして、多少は取り入れられました。緑化計画や公園の改修計画の策定は審議会や委員会などをつくってやるわけですが、議論をかみ合わせることが肝心です」

 ――今後はどんな活動を。

 「バスに乗っても子供たちはスマホにかじりつき、川や山で遊ぶという大事な体験をしていない。そんな場をつくってあげれば親たちも来てくれるし、自然の中に入れば会話も弾む。常磐公園で続けているコウモリ観察会などを通して、動物研究の立場から市民に還元したい」


戻る