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いいづか・あつし 1963年、埼玉県加須(かぞ)市生まれ。岩手大農学部林学科を卒業後、88年に林野庁に入庁。沖縄をはじめ全国各地で国有林行政に携わり、東北森林管理局(秋田市)森林整備部長を経て2016年から現職。「自然の中にいるのが好き。旭岳や黒岳、緑岳、赤岳にも2回以上は登った。半分は仕事ですが」 |
約23万ヘクタールと広大な大雪山国立公園は今、夏山シーズン真っ盛り。カラフルなウエアに身を包んだ人々が行き交うが、繊細な自然の中に続く登山道の荒廃も心配される。国有林内にある登山道の保全につなげるボランティア巡視員制度の創設に旗を振った上川中部森林管理署長の飯塚淳さん(54)に、制度の狙いなどを話してもらった。(聞き手・旭川報道部 佐藤洋樹、写真・大島拓人)
――巡視員制度は5月末にスタートしました。今、なぜなのでしょう。
「登山ブームで若い女性や高齢者、外国人観光客と大雪山系でも登山者が増えています。どうしても登山道は傷む。どうやって直してゆくのかが一番の課題。管理しているのは環境省や道、そして私たち林野庁ですが、それぞれ予算や人員が限られ、整備が行き届かない現実がある。環境省にはパークボランティア、道には自然保護監視員の制度がありますが、国有林に関わる者として、新しい枠組みをつくってお手伝いできることはないかと考えました」
――登山道の荒廃はひどいのですか。
「大雪山国立公園の約95%が国有林で、登山道のほとんどが国有林内にあります。山の土壌は火山灰でその上に高山植物が乗っかっている構造ですから、多くの人が歩くと登山道は崩れ、雨が降ると水が流れ、掘割のようになる。そこを登山者が避けて歩くようになると登山道の『複線化』が起き、さらに荒廃が進む。修繕できればよいのですが悪くなる一方。使う側にルールを守ってもらわなければならないのです」
――巡視員はどんな人たちで、どんな活動をしてもらうのですか。
「山に入る機会が圧倒的に多い自然ガイドの人たちや山岳会員、自然保護団体のメンバーや個人の登山愛好家にも委嘱し、40人を超えました。巡視の本分は、高山植物を1本でも2本でも守るために歩道以外は歩かない、ごみは捨てないなどの基本的なマナーを守ってもらうこと。ただ堅苦しいものではなく、登山客に会ったら『道を外れないでください』『高山植物を大切にしてください』と声掛けするイメージですね」
――ほかに狙いは。
「2次的効果として、登山道のどこが傷んでいるという細かな情報をいただいて、保全に生かしてゆくことがあります。巡視員も登山道整備に参加できるようにしようと、環境省と協力してマニュアル作りも進めています。巡視員制度とは別ですが、環境省とは携帯トイレの普及のために販売・回収場所の設置についても話し合っています」
――将来はどんな制度に育ってほしいですか。
「大雪山系を守るために活動してゆけるのは、地元に定着して自然を相手に生計を立てているガイドの人たちだと思う。彼らが自然保護や利活用に意見を出し合える場にしたいし、冬の体験ガイドのコース設定など、一年を通して仕事を確保できるような工夫も必要でしょう。大雪山系という素材を生かすための一番大きなフィールドが国有林であるわけですから」
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