北海道新聞旭川支社
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ヒューマン

鈴木章記さん(49)*上川町森林組合総務課長*木質バイオマス普及に奔走*小型ボイラー 可能性信じ  2017/03/19
すずき・あきのり
1967年、丸太の積み上がる貯木場に囲まれた上川駅近くの住宅で生まれる。上川高を卒業後、札幌の専門学校で経理を学ぶ。スポーツ用品の問屋を経て97年、父親の病気を機に上川町森林組合に転職した。娘2人は独立し、妻と小5の長男と町内に暮らす。

 再生可能エネルギーの一つで、木材加工時に出る木くずを燃料にして暖房する「木質バイオマス」。上川町森林組合や町でつくる地域資源利活用推進協議会の事務局長として小型ボイラーの普及に向け、輸入事務や実証実験を手掛ける。木質バイオマスはCO2を吸収した木が原料のため地球温暖化対策にもなり、「いいことだらけなんです。信じてもらうのが大変」と、各地を奔走する。(聞き手・旭川報道部 山村晋、写真も)

 ――木質バイオマスについて詳しいですね。

 「9年前に町の新エネルギービジョンを検討するメンバーになり、間伐材の切れ端などを細かく砕いてつくった木質バイオマス燃料の勉強を本格的に始めました。森林組合などで2014年にウッドチップス協同組合を設立し、15年に燃料となる木材チップの工場を建てました」

 ――工場建設には苦労もあったと聞きます。

 「降雪量の多い地域でチップの含水率を20~30%まで下げるという前例のない設備です。牛ふん堆肥化施設で、乾燥させ過ぎるとして失敗した空気循環システムを参考にしました。16年は3万8千立方メートルを生産し、旭川市と江別市にある製紙会社の木質バイオマス発電所に販売。この2カ所で95%を占め、小口需要の開拓はこれからです」

 ――なぜ小型ボイラーの普及を目指すのですか。

 「大型ボイラーの大半は輸入品で高いからです。上川町の公共施設への導入を検討したボイラーは1億円もかかる試算でした。それが小型であれば、さらに製造会社から直輸入すれば、安くできます」

 ――同協議会のメンバーの建設会社事務所に導入し、実証実験しました。

 「予想を上回る結果で驚きました。実験に使ったのは、鉄筋コンクリート2階建ての古い建物。セントラルヒーティング方式の灯油設備を、道の補助を受け、オーストリア製の小型ボイラーに置き換えました。2月の1カ月間の燃料費を比較してみると、昨年は灯油代が約20万円だったのが、今年は町内産の木材チップ代8万円弱で済みました」

 ――上川町には森林がたくさんあります。

 「町内の総面積の94%、9万9千ヘクタールを森林が占めます。1954年の洞爺丸台風で倒れた膨大な木々の処理で多くの木材工場が集まる『林業のまち』として発展しました。トドマツやカラマツを育て、切り出して出荷するまでに出る枝や木っ端は『ごみ』でした。それが燃料として『宝の山』に変わるのです」

 ――今後の展望や課題を教えてください。

 「小型ボイラーの直輸入に向け、オーストリア大使館やメーカーなどと交渉し、現地を何度も訪ねました。欧州は木質バイオマスは当たり前。スマートフォンで操作できるコンピューター搭載のボイラーが暖房や給湯に使われ、灯油と並ぶ存在です。現在は建築基準法や輸送コストが課題ですが、きっと普及すると信じています」


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