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さいとう・しょうこ 1968年、日本アルプスの近くの長野県松本市の寺院に生まれ、高校時代は山岳部に所属。大谷大(京都)を卒業後、北海道の山にひかれて道教委の教員採用試験を受けた。美幌農業高(当時)に7年間勤務した後、士別東高に赴任した。郵便局員の夫、中学3年の長男と士別市内で暮らす。 |
士別市の昼間定時制高校、市立士別東高(河合宣孝校長、17人)は小規模校の良さを生かし、学力やコミュニケーション力に不安のある生徒の支援に力を入れている。国語科の斉藤祥子教諭は「普通科高校での特別支援教育」が一般的でなかった2000年に着任して以来、指導に工夫を重ね、昨年度は文部科学大臣優秀教職員表彰を受けた。17年間にわたる同校での取り組みを聞いた。(聞き手・士別支局 後藤耕作) ――士別東高の特色は。 「周囲に合わせて大勢で授業を受けるのが苦手で、中学時代は不登校などで通えなかったけれど、高校は特別支援学校でなく普通校でやり直したい。そういう意欲を持って市内外から転入学してくる生徒がいます。入学試験は面接のみ。学力でつまずいた経験を持つ生徒は少なくありません」 ――義務教育からの学び直しに取り組んでいます。 「始めたのは10年ほど前から。国・数・英を小学校からやり直す本校独自の授業『ベーシック・スタディ』で主にやっています。週2時間、方程式や九九、漢字の読み書きなどからやり直す。クラス単位でもしますが、個々人に合わせるため、学年区分をなくして習熟度別でも行っています」 ――きっかけは。 「小規模校で、もともと学び直しを支える風土がありましたが、08、09年に普通科高校での特別支援を考える文科省のモデル事業に選ばれ、全校的な取り組みになりました。下の学年の子と一緒に学ぶことになりますが、個人に合わせる方が大切です。『中学では授業のスピードが斉藤先生の3倍だった』と冗談で生徒に言われます。近年は、授業について行けないという理由だけで中退する生徒はいません。また、コミュニケーションの苦手な生徒には、ボランティア活動を通して人との関わり方を学び直してもらっています」 ――普通科高校での特別支援を考える上で、大切なことは何ですか。 「生徒の半数は不登校を経験しているし、事情を抱えた子もいます。モデル事業では毎月、研修会を開き、精神科医や福祉関係者らに助言をもらいました。分かったのは、教員は授業で見える以外の生徒を知ることが重要だということです。あの生徒は朝食を食べていないとか、登校前に親とけんかしたとか、ささいなことまで生徒たちから聞き、職員室でも共有しています。親は子どもが高校でうまくやれているか、心配しています。問い合わせがあれば、誰でも説明できるようにしているのです」 ――生徒と接する中で気を付けていることは。 「生徒の『変わり目』を見逃さないことです。常に他人のせいにしていた子が自分の問題ととらえるような発言をしたり、自分中心だった子が相手に優しくし始めたりと『勇気を出した瞬間』を見てきました。東高での17年間の財産です。生徒は必ず成長する。自分に向き合って、変わろうとしている。その瞬間を見逃さないようにしています」 ――今後の目標は。 「高校3年間は短い。勇気を出して苦手なことに挑戦できるよう、環境を整えてあげたい。卒業後にさらに成長するためにも、まずは学校においでと言える教員であり続けたいですね」
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