北海道新聞旭川支社
Hokkaido shimbun press Asahikawa branch

ヒューマン

土岐美由紀さん(53)*道立旭川美術館学芸課長*日本画の魅力を紹介*球子の歩み 語るスケッチ 2016/11/27
とき・みゆき
1963年、函館市生まれ。道教大札幌校卒業後、道立近代美術館で学芸員。明治以降の近代日本美術を研究テーマとし、数々の展覧会を企画している。2008年から4年間、道立旭川美術館学芸員。3年間道立近代美術館に戻った後、15年から現職。

 「彫刻のまち」の名もあるとおり、旭川と美術の関わりは深い。道立旭川美術館で開かれている「球子のひみつ―本画とスケッチで探る片岡球子の画業」展の主役は日本画。長年眠っていたスケッチブックが、迫力に満ちた作品群の舞台裏を描き出す。同館学芸課長の土岐美由紀さんに、日本画の魅力を聞いた。(聞き手・旭川報道部 西村卓也、写真・大島拓人)

 ――片岡球子展は6年前に次いで2回目ですね。

 「前回は本画中心でしたが、今回は、その後公開された大量のスケッチ画を研究する中で分かってきたことを発表しようという趣旨の企画になりました」

 ――スケッチから分かったこととは?

 「本画以上に画家の歩みが分かります。球子は戦前、小学校の先生をしていたので、モチーフも草花や子供など素朴なものが多い。色や形のバランスも『絵づくり』をせず、あるがままのものです。しかし、戦後は大学で教えるようになってから、歌舞伎や雅楽など伝統芸能を扱うようになりました。役者の喜怒哀楽の表情など瞬間をとらえ、想像力を加えて絵を組み立てる作品が増えました」

 ――片岡球子の作品との出合いは。

 「道立近代美術館に就職して、多くの収蔵品を研究したのが最初です。日本画であることへのこだわりがとても強いことが魅力的でした。滑らかな油絵と違い、日本画は絵の具の粒子まで目に見えます。天然顔料の物質的存在感が、迫力ある絵画表現を生み出すんです」

 ――西洋画とは違った魅力なんですね。

 「欧州の絵画は立体感を出すことに力を入れていて、3次元の現実世界を2次元の絵の中に再現する技法が目立ちます。日本画はそこに重点を置かず、色や線の形を使って対象を象徴的に表します。平面的ですが、色彩感やマチエール(絵肌)の表現力が油絵にはない特徴です」

 ――今後、紹介したい作家はいますか?

 「たとえば、北海道出身の日本画家として片岡球子と双璧をなす存在に、岩橋英遠がいます。球子とは持ち味が違って独特の面白みがあります。また、明治から戦後にかけての日本画の流れが分かるような展覧会を開くのも目標です」

 ――そうした活動の場として、旭川の風土をどう感じていますか。

 「市民の皆さんはとても理解があると思います。今回の展覧会でも市民実行委員会が組織され、作品を提供してくれたり、関連行事としてお茶会を開いたりしてくれたりしました。ほかのまちにはあまりないことです。文化振興に対する関心が高いので、今後も上質な展覧会を開いていきたいと思っています」


戻る