北海道新聞旭川支社
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ヒューマン

吉田晃敏さん(64)*旭川医大学長*スマホを使った遠隔医療に挑む*地域格差解消目指し実験  2016/10/16
よしだ・あきとし
1952年、札幌生まれ。眼科医。旭川医大の1期生として79年に卒業後、同眼科学教室に入局した。80年米ハーバード大に留学。旭医大助教授を経て92年に同教授。2007年から同大学長。「クラウド型救急医療連携支援事業」運営協議会の会長を務める。

 スマートフォンなどモバイル端末を使った遠隔医療に取り組む「クラウド型救急医療連携支援事業」が旭川医大と道内6病院の間で今月始まった。専門医がどこにいても医療情報を受け取って診断し、地方の医師に指示ができる国内初の実証実験。20年にわたり遠隔医療をけん引してきた吉田晃敏学長(64)に、新システムの仕組みとメリットなどを聞いた。(聞き手・山村晋、写真・野沢俊介)

 ――まず事業の内容を教えてください。

 「地方患者の医療画像を、インターネット上のデータ保管場所『クラウド』経由で旭医大の専門医のスマホへ送り、画像診断や受け入れ準備に役立てます。心臓血管外科分野を対象に、北見赤十字、道立北見、深川市立、留萌市立、富良野協会、遠軽厚生の6病院と連携。総務省の支援を受けて2カ月間、医療と情報の安全性を検証します」

 ――具体的には。

 「これまでの遠隔医療は病院間を結ぶ仕組みでしたが、今回は患者のコンピューター断層撮影装置(CT)画像などを専門医が自宅にいても診断でき、治療方針を決められます。専門医は搬送元の病院と旭医大病院のスタッフに診断や指示を一斉に伝え、すぐに緊急手術の準備を整えます。タイムラグ(時間のずれ)がありません。救急車の到着と同時に手術ができるのです。治療開始までの時間を短縮することで救命率の向上が図れるようになります」

 ――さまざまな効果が期待できるのですね。

 「大きいのは医療費の削減です。患者が病院を移る度にCT画像を撮影したり、診断を受けたりしなくてもよくなります。病院側は、出張の専門医に支払う経費を節約できるでしょう。今回の遠隔医療で、患者も専門医も動かず医療情報だけを動かす新しい『情報伝達医療』が実現できます」

 ――救急以外の診療科への応用も考えていますね。

 「目指すのは、地域間の医療格差を解消し、地域のあらゆる診療科の医師への支援体制をつくること。日本が始めたら、欧州や米国も続くでしょう。世界の医療が変わり、メディカルツーリズムも盛んになる。海外から来た患者が治療を受け、帰国してからも遠隔医療で責任を持てますから」

 ――課題もあります。

 「セキュリティーの問題ですね。医療情報の取り扱いは失敗が許されません。電子カルテの共有は2005年に始められましたが、有線だから可能でした。現在は通信技術が進歩し、無線でも高度に暗号化するなどで安全性を確保できますが、今回の実験では必要なセキュリティー水準も明確にします。『クラウド』はあらゆる医療情報をため込むため、ビッグデータの活用も進みます。情報が細かく分析できるようになり、薬の治験が効率的にできるなど医療のあり方にも影響を与えるでしょう」


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