北海道新聞旭川支社
Hokkaido shimbun press Asahikawa branch

ヒューマン

竹田津実さん(79)*動物写真家*キタキツネ撮り続け半世紀*多様な表情 人間のよう    2016/04/24
たけたづ・みのる
1937年、大分県生まれ。63年、岐阜大農学部獣医学科卒業。学生時代に訪れた知床に引かれ、オホーツク管内小清水町の農業共済組合家畜診療所の獣医師となる。91年、診療所長を退職し、2004年、東川町に移住。08年、北海道文化賞を受賞。著書は約90冊あり、英語、中国語などに翻訳されたものもある。

 映画「子ぎつねヘレン」の原作者で、動物写真家の竹田津(たけたづ)実さん(79)=東川町在住=が単行本「恋文 ぼくときつねの物語」(アリス館)を出版した。キタキツネに魅了されて半世紀。たそがれ時に空を眺める後ろ姿など、撮りためた271点には豊かな詩情が漂う。大地を歩き、温かなまなざしでキツネを見つめてきた日々について聞いた。(聞き手・藤田香織里、写真・大島拓人)

 ――そもそもなぜ、キタキツネですか。

 「キツネは、人に非常に近い所で暮らす隣人のような存在。さまざまな姿を見られるから面白い。夕日を見つめ、物思いにふける姿は人間のよう。恋心を交わす時の『カーン、カーン』という鳴き声は、本当に美しい。九州人であまのじゃくのせいか、厄介者と言われる存在に、少しぐらい応援者があっていいとも思う。『男は何者か』ということもキツネに学びました」

 ――何者か、ですか。

 「動物の多くは母子家庭。家庭に父親がいるのはキツネなど少数です。でも、つながりが強いのは乳を持つ母と子。父親は常に、どういう風に振る舞うと子どもに目を向けてもらえるか工夫しないと相手にされないんです。例えば、子どもは乱暴なものに憧れるところがあるから、急に高くジャンプしたり、全速力で走りだしたりするとか。子は喜んでまねます」

 ――父の見せ場ですね。

 「でも長続きしない。子どもは、母親とのように呼吸が合わない違和感を持ち、離れちゃう。母親は見事ですよ。子育てで一息つきたい時には、子の注意を父親に向かせたすきに姿を消すとか。人間のように父母の元に里帰りもする。初めて見た時は興奮したなあ」

 ――多様な姿を見るコツもあるのでは。

 「キツネは無視されるのが嫌。撮ろうとするキツネを決めたら、視線を感じつつ、プイと反対を向いて待つ。1時間もすれば、視界に入ってこようとするから、また反対を向く。繰り返すうちに近づけるようになる。緊張しないように『いい顔してるよ』と声をかけて撮ります。シャッターをたくさん切る音で『この姿なら、見てもらえるんだ』とも考えるようで、ポーズを取ることもあります」

 ――半世紀の間に悲しい別れも経験しました。

 「初期に出合ったメスですね。授乳など子育てを見せてくれましたが、火薬を仕込んだ狩猟具で殺されました。自分を責めました。近づきになれたうれしさで『人間は怖い』『距離をおけ』という鉄則を教えていなかった、と。安心させるだけではだめ。今は『ほどほどにしておけよ』と教えています。野生動物とどう付き合うべきか。難しく、常に頭にある問題です」


戻る