北海道新聞旭川支社
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北極星

柴田えみ子(旭川・尊厳死協会道支部理事)*意思表明  2020/01/27

 わが家の「空」は、老犬ですが丈夫で予防注射以外は病院とは無縁でした。その空が昨年暮れに突然後ろ足を引きずり、歩けなくなりました。病院でヘルニアと診断されすぐ手術が必要とのこと。しかも、手術後歩けるようになるとは限らず、亡くなる可能性もあると説明されました。尊厳死の講演活動で意思表明の大切さを伝える私は、意識のない身内の意向に苦悩する家族の心境でした。命だけは助けてほしいと、すがる気持ちも実感を伴い胸に迫ります。

 空はどうしてほしいのだろう。食べ物を一切口にせず、すがるような目でじっと見つめます。高齢の空に手術をすべきかどうか。あまり不自然なことはしたくありません。しかし、私の決断の結果、もし何かあったらと、苦悩せずにはいられませんでした。動物とはいえ、まさに尊厳死の問題に直面したのです。その日は答えが出ませんでした。ところが、帰宅後、空の食欲が回復しました。食べさえすれば自然治癒力が働きます。迷った末手術を見送りました。それから数日後、空は後ろ足を震わせながら立ち上がったのです。思わず涙があふれ抱きしめていました。

 人間には言葉があります。私たちは自分の人生に責任を持ち、最期をどうしたいのか伝えられるのです。愛犬の病気で改めて気付かされました。今、空は歩き始めています。


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