札幌の出版社を辞め、美瑛町に嫁いだ。住まいは市街地から10キロほどの農村にあり、家族も友だちもいない、遊ぶところもない。よく働きよく遊んだそれまでとは正反対の環境。20代だった私は途方に暮れた。 そこで、旭川にギターを買いに行った。何も分からない私に、店員さんが初心者用のヤマハを選んでくれた。教本を添えて「音楽ですから、うまくなるより、まずは音を楽しんでください」と言ってくれた。私はうまくはじけないと楽しいはずないし、練習する時間はたっぷりあるから上達も早いだろうと期待した。 しかし、すぐに新しい仕事が決まり、友だちもできて美瑛での暮らしが充実していった。半面、ギターは一向に上達しなかった。それでも音楽が好きな仲間と出会い、ギターを抱えて歌い、肉を焼き、ビールを飲む楽しさを知った。 富良野に移り、バンドを結成して10年になる。プロを目指しているわけでも、モテたいわけでもない。時々、集まっては練習と称したおしゃべり会を楽しみ、人さまの前で年に3、4回、演奏する機会をいただく。ギターは下手なままだが「音を楽しむ」ことが音楽なら「私はちゃんと音楽やってます!」。今なら楽器店のお兄さんに言える。
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