気温がぐっと冷え込んだ朝、霧が発生した。雲海のような景色が広がるサロベツ湿原。やがて日が昇り、雲海全体が真っ赤に染まる。まるで山の上かと錯覚するような素晴らしいご来光が拝める…。この息をのむような幻想的な美しさは、時がたつと魔法のように消えてしまう。やがて澄み切った秋の空をオオヒシクイやマガンが渡っていく。 お花の季節はだいぶ前に終わり、今は枯れた草が風でカサカサと音を立てる晩秋の湿原。少し前までは湿原植物が紅葉する「草紅葉(もみじ)」で、オレンジ色に染まっていたが、秋が深まるにつれて、すっかり植物の色が抜けて金色になってきた。 夏鳥たちがさえずり、緑の中に花が咲き競っていた華やかな季節からすると寂しさを感じる。しかし、この静けさが私は好きだ。 厳しい冬に向かう前のひと時。生命活動が止まったかのように見える植物たち。実はしっかりと来年に向けた準備をしている。イソツツジは温かそうな白い毛に包まれた冬芽を付け、雪の重みで枝が折れないように葉を下向きに折りたたんでいる。ハンノキは雪どけと同時に咲かせる雄花や雌花のつぼみを付けている。誰もがいつ雪が降っても大丈夫なように支度している。サロベツが雪の世界に包まれるまであと少し。来春に備えて待つ彼らがとてもたくましく見えた。
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