「横の大きな建物は何ですか」。雨の日、東京から旅行に来ていた親子に尋ねられた。「よーくご覧ください。あれは建物ではなくて全てタマネギですよ」 この時期、横の集荷場には収穫されたタマネギの入ったコンテナがひっきりなしに運ばれてくる。それをフォークリフトがてきぱきと上手に積み上げていく。この日は雨で作業がお休みだったので、なるほど巨大な建物のようにも見える。 「富良野じゅうのタマネギがここに集まってくるのですか」。小学1年生という息子さんに尋ねられた。「いいえ。この町内会のうちの何軒かの分だけ。富良野にはこのような集荷場がいくつもあるんです」 母親が息子さんに声をかけた。「東京で買う北海道産のタマネギは、ここから運ばれて来たのかもね」。息子さんは目をキラキラさせてコンテナを見つめていた。「タマネギでできたビルなんて初めて見たね!」 後日談で、彼はその後もコンテナを見つけるたびに「タマネギ!」と叫び、東京でも食事にタマネギが出るたびに「富良野のタマネギ?」と聞くそうだ。「有名なお花畑にも動物園にも連れて行ったのに、一番の思い出はタマネギで…」とお母さんは苦笑していた。「どうだ! 富良野にはタマネギのビルがあるんだぞ」と誇らしくなった。建築ラッシュは今なお続く。
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