演出上の都合から反響板がなく袖幕がセットされた悪条件の中で、超満員の観客の身体に響くような圧倒的な声量と心震わせるような表現。スロヴァキアのバンスカー・ビストゥリツァ国立歌劇場による「コンサートオペラ・トスカ」士別公演は、予想をはるかに超えた感動を残した。 数年前から企画は知らされていたが、オペラの公演など士別では到底無理と考えていた。主催の実行委の事務局長を渋々引き受けた。ついでにナレーターも。チケットの動きは鈍かったが、ひと月前から加速度的に売れ始めた。まだこの地方も捨てたものじゃないと、本当にうれしくなった。 日本と違い欧州では、地方都市でも音楽や演劇が生活の中に根付いていることは聞いていたが、人口7万人の町に、ソリスト、バレリーナ、オーケストラ、そして舞台、衣装、音響など300人ほどのアーティストが所属する国立歌劇場があることに改めて驚いた。 日本では「地方の時代は文化の時代」の掛け声の下、40年ほど前から急速に文化施設の建設が進んだ。しかし今、施設の老朽化は進み、人口減少とともに文化事業は低迷している。公共ホールが失われてはいけない。豊かな市民文化を今後も実現していくために、地方文化施設のビジョンをしっかり確立することが、強く求められていると思う。
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