この時期はガイドの仕事をよく頼まれる。僕のガイドはもっぱら徒歩。小さい焼尻島だからこそ、ゆっくり歩きながら、島の魅力に触れてほしい思いがある。 お客さんの多くは島のシンボルとも言うべきめん羊がお目当て。ガイドでは島の生活や歴史の話を序盤に置き、国指定の天然記念物でもあるオンコ原生林をじっくりと見ながら歩いた後、開放感あふれる広大な牧場風景を堪能してもらうのが定番だ。 ところが、悩ましいのは「そこにヒツジがいるとは限らない」という点。ヒツジは放牧される区画がよく変わり、至極当然だが、観光の都合に合わせてはくれない。そもそも「焼尻めん羊牧場」は観光牧場ではない。現在の高いブランド力は長年、畜産牧場として地道に実績を積んだからこそだ。ガイドの場合は遠回りしてでも必ずヒツジを見せるようにするが、ガイドなしの場合はヒツジに出合えずじまいな人も多いと聞く。 他方、島の食堂では今年の生育不良で、めん羊肉を入荷できず、観光客に提供できない日が続いた。観光客が多いだけに、がっかりした観光客も多かった。 観光に携わる身としては忍びない。観光のためのヒツジとは言い難いが、実際には観光のためのヒツジになってしまっている。なんとか折り合いがつかないものか。
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