山奥にぽつんとある一軒家にも、どこかの猫がふらりと遊びにくることがある。その日も農舎の陰にすっと隠れた長く黒い尻尾を見て、子猫だと思った私はすばやくその体をつかんで引き寄せた。予想に反してかわいい子猫の顔は現れず、代わりにズルリと長い胴体が! 思わず手を離したそれはミンクであった。 どんな病気を持っているか知れない野生動物である。かまれなくて良かったと胸をなで下ろしていたら、「ミンクと言えば高級毛皮。捕まえなきゃ」と友人に言われてしまった。残念ながらこの季節、さすがのミンクも夏毛でボロボロ。売り物にはならない。冬毛だったとしても、ミンクの毛皮には嫌な思い出がある。 私が子どもの頃、祖父がミンクを捕まえて毛皮をはいでいたのだが、素人仕事の拙さで肛門近くにあった袋を破ってしまった。それが「イタチの最後っぺ」で知られる臭いのもとが詰まった袋だったようで、それはもう、すごかった。イタチ科のへは排せつ物系の臭いではなく、シンナーのような強烈な刺激臭。刺激が強すぎて息が詰まるのだ。 ギャーと喚くための息さえ吸い込めないほどで、目に染みるし頭痛もしてくる。その後しばらくは何を食べても味がしなかったし、家の中も長らく臭かった。いかに高級毛皮であろうと、もうこりごりである。
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