北海道新聞旭川支社
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北極星

土田史世(留萌・眼鏡店勤務)*あなたがいるだけで 2019/05/26

 確か小3のころ、大好きな祖父母と弟の4人で隣町の増毛町へ遊びに行った。とっても晴れた春の日、1両列車に揺られながら話をした。祖父が「窓の外をごらん」と言った。春の日に照らされて地平線のかなたまでキラキラと輝く日本海があった。

 増毛駅の近くのすし屋で、ぱくぱくほおばる私を見て、祖母は「史世はいつもおいしそうに食べるねぇ」。目を細めて私を見る祖父母が不思議でしょうがなかった。公園の中の大きな橋を渡る時、弟と私は「怖い、怖い」とちゅうちょする。すると、祖母が弟の手を、祖父が私の手をしっかり握ってくれた。時計屋だった祖父はごつごつした温かい手だった。

 祖父は5年前に他界。祖母は介護施設に入居している。昨年、施設の行事に息子と参加した。息子と一緒に車いすを押し、途中、あの橋を渡る。「おばあちゃん、川がきれいだよ。見て」。祖母はぼんやりとした表情のまま、何も答えてくれなかった。

 公園に着き、昼食を食べる。祖母の口にゆっくりご飯を運ぶ。祖母もまたゆっくりと、少しだけ笑ったような表情で食べている。「史世はいつも…」。あの日の祖母の言葉を思い出す。なんだか涙が出てきたけれど、やはり祖母は何も言わず、赤ちゃんのような穏やかな表情のままだった。


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