北海道新聞旭川支社
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北極星

大橋美智子(旭川・農業)*農の知恵 2019/04/29

 ようやく春本番。これからの季節は本業のコメ作りの合間に、少しばかりの花や野菜を育てることが私の楽しみです。例年、霜の心配のなくなる6月になってから畑に苗を植えます。

 昨年、あれはまだ5月上旬のことでした。家から遠い、通いの田んぼに行くと、隣の人がもう畑で苗を植えていました。

 そこは毎年、いつの間にかトウキビが育っている不思議な畑でした。トウキビは寒さに弱いのに、こんなに早く植えていたとは驚きです。私は用水を飛び越えて話を聞きに行きました。

 「こんなに早く植えて大丈夫ですか? 予報では明日の最低気温は3度ですよ」。「毎年この時季に植えているんだ。もっと早く植えたこともあった。霜にやられることもあるけれど、全部はやられない。なんとかなるもんだ」。話はさらに続きます。「大豆は駄目だぞ。大豆はばかだ。まいたらすぐに芽を出す。そして霜にやられる。だけど小豆は利口だからな。ちゃんと暖かくなってから芽を出すんだ」

 畑の主は何十年もここで農業を営んできたおきなです。お仕事中でなければ、まだまだ続きを聞きたかった。

 経験に裏打ちされたこんな知恵こそが、インターネットでもたらされる最新の情報よりも、私には心に残る価値あるものなのです。


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