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北極星

大槻みどり(富良野・カフェ経営)*バイクのあいさつ 2019/04/14

 バイク同士がすれ違い、手を挙げてあいさつする。誰だか分からない。そして、2度と会わないかもしれない人と交わす1秒足らずのコミュニケーション。

 よく晴れた日なら「きょうは最高だね」。雨なら「しんどいけど頑張ろうね」。言葉はなくてもメッセージは伝わるのだ。

 相手が自分と同じスーパーカブだと、あいさつは1秒どころではなくなる。道の駅やコンビニでの休憩でカブと出合うと、つい話しかけてしまう。「こんにちは。これはどこのマフラーですか?」。二言目がマフラーについてなんて、大人として失礼な気もするが「これタケガワのなんですよ」と会話は違和感なく続く。カブが好きというだけで昔からの友人のように話題は尽きることがない。

 こうして全国にライダーさんの知り合いができ、毎年必ず私のカフェに顔を出してくれる人も増えた。年齢も、職業も、本名すら知らないけれど、それは重要ではない。「やっぱりマフラーは純正に戻したんですよね」。一番に伝えたい情報は、こっちなのだ。

 春が来た。冬眠明けの動物のように、ライダーたちがブルルンと動きだす。「どうぞ安全運転で!」。今年も私はすれ違うたびに、小さなカブから大きく手を振る。


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