数年前、祖母からデートに誘われて、日本海が一望できる増毛町の喫茶店に行きました。そこで、話してもらったのが祖母の恩人の話です。その方は同町に1915年(大正4年)に生まれた本間一夫さんです。 本間さんは5歳のころ失明し、13歳で函館盲唖(もうあ)院に入学。海外にある点字図書館の存在を知りました。「いつかは日本でも点字図書館を建てたい」。さまざまな困難を乗り越え40年(昭和15年)に日本初の点字図書館(東京)を設立します。 しかし、戦中に火災にあい、残った点字図書を増毛に持ち帰り、少しずつ点字に訳しては郵便局から全国に送っていました。当時、郵便局に勤めていた若い女性が「人として素晴らしい生き方だ」と感銘を受け、日本初の点訳奉仕者になりました。時に周囲からの悲しい発言があっても、2人は点字を打ち続けました。 「本間さんは点字と出合い、知識を得ることができる幸せを多くの方に届けたかった」。そう本間さんの思いを語ってくれたのが、その時の女性である祖母でした。「おばあちゃんは点字で生かされた人生だった」。90歳を超える祖母の目頭が熱くなっていました。 先日、東京にある点字図書館に行ってきました。蔵書は27万冊を超えます。「あなたも、私も、一緒に幸せになろう」という願いが満ちあふれています。
|