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北極星

國枝保幸(市立稚内病院長)*パターナリズム  2019/01/21

 医師になり立てのころは右も左もわからぬまま、1年間の大学病院での研修後、医療現場に放り込まれました。自分の道は自分で切り開くのが当たり前の時代で、2年目から勤務した釧路ではとても苦労をしたのを今でもはっきりと覚えています。

 次第に仕事には慣れましたが、春から夏にかけて霧の多い釧路は夜になると鳴り渡る霧笛が風物詩で、霧笛を聞くたびに医師2年目の春はいつも胃が痛かったことを思い出します。

 しかし、そんな駆け出しの若造に対してもほとんどの患者は「お医者様」と慕ってくれた、そんなまだ良き時代の香りが残っていました。病状を説明すると「先生にお任せします」の返答がほとんどで、医師が父権的権威「パターナリズム」を持っていた時代でした。今でもそういう患者さんの方がはるかに多いと感じますが…。

 患者への病状説明をIC(Informed Consent、インフォームド・コンセントの略)と呼びますが、現在行われるICは以前より事細かな説明が必要で、万が一の合併症についても説明しないと、後々訴訟問題に発展しかねないことを考慮しているわけです。パターナリズムの時代が良かったとは言いませんが、現在のICには愛が足りない気がしています。


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