初めてこの地に赴任したのは25年ほど前、出張医としてです。赴任して驚いたことのひとつが、「おらが街」の病院に対する医療不信が異常に強いということでした。この地に赴任した医師達はみな一様にこの地域の医療不信の洗礼を受けることになります。 私自身、街でたまたま知り合った方に、市立病院で医師として働いていること告げると、明らか馬鹿(ばか)にしたような態度をとる人がいました。病状説明をする際に食ってかかってくる家族にもしばしば遭遇しました。 私とは初対面にもかかわらず最初から喧嘩(けんか)腰なのです。「ここのやつらどうなっているのだ!」と心の中で、正直思ったものです。他の医師達も同様に、この地域の医療不信の強さに大層驚き、怒り、呆(あき)れながらも任を全うし、この地域に思い出のかけらを残しつつ去って行くわけです。 地方の病院ほど評判が良くない、ということが、どの地域でも定番になっています。というのは、地域の唯一の病院だということ、医療が不確実なものであることが一般に理解されていないこと、そして悪い話ばかりが噂(うわさ)になって狭い地域に広がって行くことが原因なのです。この状況を改善するのは容易なことではありません。
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