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北極星

 國枝保幸(市立稚内病院長)*医療の進歩と医療不信 2018/08/06

 医師となって35年目になりますが、その間の医療の進歩は目を見張るものがあります。そのひとつを挙げると、慢性骨髄性白血病で、昔は「不治の病」でした。数年の慢性期を経て急性白血病と同様の病態へ移行すると治療のかいなく数カ月で命を奪われる恐ろしい病気でした。

 光明が差したのは「骨髄移植」の登場で、北海道では約30年前に始まりました。ただ、移植には年齢制限があり、恩恵を受けるのは一握りの患者でした。その後、十数年前に新しい飲み薬が開発され、さらに改良された新薬が使える現在、治癒可能な病気となっています。

 医療の進歩の中でわれわれ医療者を取り巻く環境も大きく変化しました。医療不信が強くなったことです。「乱診乱療」があったとして社会問題化した埼玉県の富士見産婦人科病院(廃院)の事件をきっかけに、マスコミの医療バッシングが起こり、不信感を醸成してきた背景があります。名医にかかりたいと考える世相の一方で、実際に自分が受ける医療に対する疑いが強くなったのです。

 昔は「お医者様」と慕ってくれる良き時代もありましたが、今の時代は馬車馬のように働いてもちょっと失敗すれば激しく責められ、訴訟にならないように鎧(よろい)をまとって構えながら診療をしなければなりません。これから医師になる人たちはかわいそうだな、と老医師は思ったりします。


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