三浦綾子記念文化財団の理事長に就任して1年余りがたちました。歴史小説好きで、司馬遼太郎さんの作品はほぼすべて読んでいましたが、三浦文学で読んでいたのは「氷点」ぐらい。理事長を引き受け、書店で「塩狩峠」「泥流地帯」「母」などの代表作を次々と手に取りました。 いずれも心に残る素晴らしい作品でしたが、中でも「銃口」はキリスト教徒としての三浦さんのメッセージを強く感じました。昭和と戦争を描いたこの作品の主人公北森竜太の家は祖父の代からの質屋。ある日この家族は、朝鮮半島から道内に連行され、過酷なタコ部屋労働を強いられていた朝鮮人をかくまい、脱走を手助けします。 物語の後半で竜太はこの朝鮮人と意外な場所で再会します。竜太は召集令状を受けて旧満州(現中国東北地方)に出征、終戦を迎えます。旧満州から朝鮮へ必死に逃げる中、民兵の部隊に捕らえられ、銃口を向けられる竜太。そこで、かつて家族でかくまった朝鮮人に出会い、九死に一生を得るのです。 朝鮮人が竜太の名前を聞き、「えっ君があの竜太君か」と言った場面に読み進んだ時、涙が止まりませんでした。恩には恩で報い、愛には愛で応える。三浦さんは、人間としてあるべき姿を伝えたかったのではないでしょうか。
◇ いしかわ・ちかお 函館市(旧南茅部町)出身。1973年に旭川市に移住。柴滝建築設計事務所の取締役会長。三浦綾子記念文化財団の理事長のほか、旭川龍馬の会の会長、旭川木の会の事務局長も務める。68歳。
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