初夏のある日、私は札幌のTデパート地下銘菓売り場で順番を待っていた。と、先客のおばちゃんが私の手元を見るなり、「ちょっと! この人、先にしてあげなさい。一個だけなんだから」と店員さんに言い出した。 「え? いえ、急いでいませんから」と辞退したが、なおも「ほれ、2人も店員いるんだから、気遣ったらどうなのさ、みんな忙しいんだよ、ねえ」と私に同意を求めた。「あんた、どっから来たの? 名寄? 名寄にだったら看護婦だった時の友達いるんだわ。あんたも看護婦かい? 違うの? 看護婦っぽい顔だからさ」などとしゃべりつつも店員さんに目をやり、「そんなに丁寧に包まなくてもいいよ。うち用だから」と注文を付ける。 ついつい私も「ですよねー。包装紙なんか家についた途端にごみですよねー」などと調子を合わせてみた。会計を終えたおばちゃんは「これあげるわ」と買ったばかりの一口ゼリーを5、6個私の手に押し付け、「じゃあね、元気でやんなさい」と声高らかに言って去って行った。 いい年をして見知らぬ人にお菓子をもらった自分に驚きつつ、あんなふうに一瞬でその場を制圧する能力があったら人生は何か変わっていただろうかと、ぼんやり考え、ふと気づく。「どっから来たの」って、地元の札幌マダムではないことを何で見抜いたのだろう。
|